ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

322 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)沼田倫征,大澤拓生し,Cascadeもガイド領域と標的DNAとの塩基対の形成を6 塩基周期で阻害していた.9)その結果,Cascade およびCmr複合体の双方において,ガイド配列と標的の2本鎖はほどけたリボン状の構造をとっており,両者が類似したしくみで標的を捕えることが判明した.I型およびIII型エフェクター複合体の構造を精査すると,リボン状の核酸構造の形成は,これらエフェクター複合体が効率良く標的と結合する上で非常に重要であると考えられる.I 型およびIII 型エフェクター複合体の標的を認識するしくみが類似していた一方で,標的を分解するしくみは両者で大きく異なる.すなわち,Cmr複合体はそれ自身がもつ触媒活性を利用して標的RNAを加水分解するのに対し,Cascade に捕らえられた標的DNAはリクルートされてきたヌクレアーゼ/ヘリケースであるCas3によって分解される(図7).3)このように,CascadeとCmr複合体の立体構造および標的との結合様式はよく類似していたが,標的を切断するしくみはまったく異なる.したがって,I 型とIII 型エフェクター複合体は共通の祖先型複合体から派生してきたと考えられる.その過程において,I 型はDNAに対する,一方,III 型はRNAに対する切断活性を獲得し,侵入者を効率良く排除するとともに,新たな機能を獲得すべく独自の進化を遂げてきたと推定される.10.おわりに最近の研究から,ウイルスなどの外来DNAからRNAが転写される際に,III-A 型のエフェクター複合体(Csm複合体)が転写伸長中の標的RNAに加えて鋳型となる外来DNAも同時に切断することが報告されている.21)また,III-B型のCmr複合体も同じ活性をもつことが示唆されている.22)上述したように,Cmr複合体とCsm複合体にはそれぞれ複数個のCmr4とCsm3が含まれており,これらサブユニットが標的RNAの切断にかかわる.一方,DNAの切断には,Csm1(Csm複合体を構成するCasタンパク質の1つ)が関与する.21)Csm1はCmr2の類似体であることから,Cmr複合体ではその基底部を構成するCmr2がDNAの切断にかかわると推定される.このように,RNAとDNAは別々のタンパク質サブユニットによって,まったく異なる空間で切断される.このDNA切断活性は転写反応と共役している.21)したがって,まず,III型エフェクター複合体がcrRNAのガイド鎖を利用して転写伸長中の標的RNAと結合し,その結果,転写部位にリクルートされたIII 型エフェクター複合体が,伸長中のRNAとともに鋳型であるDNAを切断すると推定される.つまり,III型エフェクター複合体は,転写産物であるRNAとその鋳型となる外来DNAの両方を同時に切図7 I型およびIII 型エフェクター複合体の比較.(Comparison of the type I and III effector complexes.)(a)I 型エフェクター複合体の全体構造(左),模式図(中央)および標的DNAを分解するしくみ(右).(b)III 型エフェクター複合体の全体構造(左),模式図(中央)および標的RNAを分解するしくみ(右).