ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

ページ
11/60

このページは 日本結晶学会誌Vol57No6 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No6

日本結晶学会誌 第57巻 第6号(2015) 321標的類似体と結合したCRISPR-Cas系Cmr複合体の結晶構造今回の解析から,Cmr複合体では,タグ配列内の2 番目のウリジンのみが塩基特異的に認識されることが判明した.一方,タグ配列内のほかのヌクレオチドに関しては,配列非特異的に結合しており,厳密な塩基特異性は確認されなかった.しかしながら,生体内には5’末端から2番目の位置にウリジンをもった非crRNA型のRNAが数多く存在するはずである.では,このようなRNAプールの中から,いかにしてcrRNAだけがCmr複合体に取り込まれるのであろうか? 最近の研究から,crRNA前駆体のプロセシングにかかわるCas6エンドリボヌクレアーゼがcrRNAのローディングに重要な役割を担うことが示唆されている.10),18)その詳しい原理はわかっていないが,Cas6がcrRNA前駆体をプロセシングする際に,Cmrタンパク質と一時的に相互作用することで,Cmrタンパク質がcrRNA上にリクルートされると推定される.これによって,2番目のウリジン以外には厳密な塩基特異性がないものの,crRNAのみがCmr複合体に効率良く取り込まれると考えられる.8.III型エフェクター複合体が標的RNAを切断するしくみ今回の解析から,crRNAのタグ配列がCmr複合体で固定されていることが判明した.このため,Cmr複合体はcrRNAの5’側から数えて一定距離にある14 番目,20 番目,26番目の塩基対合の形成を阻害する.その結果,これら3カ所において,標的RNAの構造が大きく歪んでCmr複合体の活性部位(Cmr4のAsp31の近傍)に配置され,6 塩基周期で切断されるしくみが明らかとなった(図6).ChiCmrΔ1複合体には3分子のCmr4が含まれており,触媒残基であるAsp31は,約24 Aの間隔で周期的に配置されていた(図4a).この距離は6 ntの核酸に相当する長さであり,Cmr4が6 ntの長さを測る分子定規として機能することも判明した.Cmr複合体から単離されたcrRNAには長さの異なる39 もしくは45 ntの2 種類が存在する.5)39 ntのcrRNAをもったCmr複合体は3分子のCmr4を,一方,45 ntのcrRNAをもったCmr複合体は4分子のCmr4を含むと示唆され,Cmr4のサブユニット数がcrRNAの長さの多様性を生み出すと考えられる.また,Cmr複合体の活性部位の数はCmr4のサブユニット数と一致するため,それぞれのCmr複合体は標的RNAを3 カ所または4 カ所で切断すると考えられる.実際,45 ntのcrRNAを含むCmr複合体は,標的RNAを4カ所で切断する.14),15)III-A型のエフェクター複合体であるCsm複合体は5種類のCasタンパク質(Csm1 ~ Csm5)とcrRNAから構成されている.Csm3の立体構造はCmr4と類似しており,19),20)thumbに相当する領域(結晶構造ではdisorder していた)をもつことが示唆される.Csm複合体のクライオ電子顕微鏡による解析から,複数個のCsm3が規則的に積み重なりCmr複合体と類似したらせん状の溝を形成することが判明している.10),13)また,触媒反応にかかわるCmr4のアスパラギン酸残基がCsm3においても高度に保存されており,そのアミノ酸を置換した変異型Csm複合体が標的RNAに対する切断活性を消失することが報告されている.6)さらに,Csm4の立体構造がCmr3に類似することがわかり,20)Cmr3と同様にCsm4が複合体の基底部においてcrRNAのタグ配列の認識にかかわると考えられる.したがって,Csm複合体もCmr複合体とまったく同じしくみで標的RNAの切断部位を選び出すと考えられ,標的RNAを分解するしくみがIII型エフェクター複合体の種類にかかわらず共通していることが示唆される.9.I 型およびIII型エフェクター複合体の分子進化I型エフェクター複合体であるCascadeは,crRNAと5 種類のCasタンパク質(Cse1,Cse2,Cas5,Cas6,Cas7)が1:2:1:1:6 のストイキオメトリーで会合した複合体である.9)立体構造の比較から,Cmr4とCas7が,また,Cmr3とCas5の構造がそれぞれ類似していることが明らかとなった.また,Cmr複合体の場合と同様に,Cascadeでは,Cas5がcrRNAのタグ配列を特異的に認識し,6 分子のCas7がガイド配列との相互作用に関与していた.9)このため,CascadeとCmr複合体において,これらのタンパク質の空間的な配置が類似しており,その結果,I 型とIII 型エフェクター複合体はよく似た立体構造をとることがわかった(図7).さらに,Cas7にもthumb領域が存在図6 Cmr複合体が標的RNAを切断するしくみ.(TargetRNA cleavage mechanism by the Cmr complex.)