ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No6

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概要

日本結晶学会誌Vol57No6

320 日本結晶学会誌 第57 巻 第6 号(2015)沼田倫征,大澤拓生スを2’-デオキシ化したRNA誘導体を作製して,その分解パターンを解析した.その結果,結晶構造から推定されたように,Cmr複合体は6塩基周期でこれら3カ所を切断することがわかった.加水分解されるこれら3 カ所のリン酸結合の近傍にはCmr4で高度に保存されているアスパラギン酸残基(Asp31)が配置されていた(図4).Asp31をアラニン残基に置換した変異体は標的RNAを切断する活性が消失していた.また,このアスパラギン酸残基をアスパラギン残基やグルタミン酸残基に置換しても活性がなくなることから,Asp31が標的RNAの加水分解反応における触媒残基として機能することが判明した.2’-デオキシリボースを含んだRNA誘導体を用いた解析から,Cmr複合体によるRNA切断にはリボースの2’-OH基が不可欠であることが判明した.したがって,Cmr複合体は,RNase Aなどに代表される酸塩基触媒メカニズムによって,標的RNAを切断することが示唆された.これは,Cmr複合体による標的RNAの分解産物が3’-リン酸末端(もしくは2’,3’-環状リン酸末端)および5’-OH末端を有するという以前の結果と一致する.5)複合体の構造解析から,Cmr4のAsp31は一般酸触媒として機能し,分解産物の5’末端にプロトンを供与することが示唆された.一方,加水分解されるリン酸結合周辺には,Asp31以外に保存されているアミノ酸残基が存在せず,リボースの2’-OH基の脱プロトン化を触媒する一般塩基触媒については明らかにすることができなかった.また,Cmr複合体は2価金属イオン依存的に標的RNAを切断するが,5)活性部位周辺には2 価金属イオンを確認することができず,その役割も不明のままである.標的RNAの詳細な加水分解機構の解明が今後の課題である.7.Cmr 複合体におけるタグ配列の認識crRNAの5’側に存在するタグ配列は,Cmr3およびCmr4.1と相互作用していた(図5a).タグ配列の8つのヌクレオチドの内,2番目のウリジン(U2)はCmr3のThr196とGly198の主鎖によって塩基特異的に認識されていた(図5b).U2をアデノシンに置換した変異型crRNAを用いてCmr複合体を再構成し活性を測定したところ,標的RNAに対する分解活性がほぼ消失することが判明した.U2はcrRNAで高度に保存されていることからも,この相互作用が複合体の形成において非常に重要であると考えられる.また,5’ 末端のOH基はCmr3のポケットに収容され,Gly58の主鎖と水素結合していた(図5b).これまでの研究から,crRNAの5’ 末端にリン酸基を付加するとCmr複合体のRNA分解活性が消失することが知られていた.15)これは,5’末端へのリン酸基付加によってCmr3との間で立体障害が起こり,crRNAがCmr複合体へ取り込まれなくなった結果であると考えられる.以上の結果より,crRNAのタグ配列は塩基特異的に認識され,Cmr複合体において固定されていることが明らかとなった.Cmr3はN末端およびC末端側にそれぞれRRMフォールド様のドメインを有しており,いずれもfinger領域を欠落しているもののpalmとthumb領域をもち,Cmr4の構造とよく類似することが明らかとなった.Cmr3のこれら2 つのthumb領域はcrRNAのタグ配列と強固に相互作用していた(図5a).さらに,Cmr3のN末端側のthumb領域がCmr4のthumb領域と機能的によく類似していることも判明した.つまり,crRNAのガイド領域がCmr4のthumb領域との相互作用によって6塩基周期でフリップアウトしていたように(図3),タグ配列8番目のヌクレオチド(G8)はCmr3のN末端側のthumb領域と相互作用し,その形が大きく歪んでいた.これにより,G8の塩基部分がフリップアウトしてCmr4.1のポケットに配置されていた(図5a).その結果,crRNAの9 番目のヌクレオチド(ガイド配列の最初のヌクレオチド)が標的RNAと塩基対を形成する環境が整い,ガイド鎖と標的からなる2 本鎖の開始位置が厳密に規定されていた(図5a).この構造的な特徴および上述したCmr複合体におけるタグ配列の固定によって,Cmr複合体はcrRNAの5’側から数えて一定距離にある標的RNAのリン酸結合を長さ特異的に切断することが明らかとなった.図5 crRNAのタグ配列の認識.(Recognition of the crRNA 5’-tag.)(a)Cmr3およびCmr4.1と結合したタグ配列の構造.(b)Cmr3とタグ配列との間の塩基特異的な水素結合相互作用.