ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

電子とプロトンと酸素分子へと分解する機能をもつ唯一の酵素であり,この水分解反応の詳細なメカニズムの理解は再生可能でクリーンなエネルギーを作り出す人工光合成研究への応用に繋がることが期待されている.これまでに1.9 A分解能のPSIIの構造解析が行われたが,放射光X線を用いて決定した結晶構造は,放射線損傷の影響を受けている可能性を否定できず,この問題を解決するために,X線自由電子レーザーを利用した無損傷構造解析法がPSII結晶に応用された.菅会員は多数の結晶を必要とする無損傷構造解析法に必要な同型性の確保された巨大な結晶を再現性良く調製するために,結晶間の同型性を迅速にスクリーニングする方法を立案・開発して試料調製法の改良を計り,プロジェクトを飛躍的に前進させた.そしてこれらの結晶を用い,データ処理方法を最適化することで,PSIIの反応開始状態における無損傷構造を1.95 A分解能で決定することに成功した.この成果は水分解反応機構の一端を明らかにしただけでなく,水分解反応が可能な人工触媒をデザインするための重要な一歩でもある.PSIは,光合成において光エネルギーを駆動力として糖を作るために必要な還元物質NADPHを生産する光合成を司るもう1つの巨大膜タンパク質複合体であり,ほぼ100%の量子効率で光エネルギーを変換することができるため,光電池などの新規エネルギー変換材料などのモデルとしても注目を浴びている.菅会員は非対称単位中に2つのLHCIを含んでいることとLHCIを構成する4つのタンパク質が非常によく似ていることを位相改良にうまく利用して,短時間に構造解析を成功させ,エネルギー伝達経路の特定を可能にした.以上の菅倫寛会員によるタンパク質結晶学を用いた光合成反応機構の理解は,この分野にとって画期的な研究成果であり,日本結晶学会進歩賞に相応しいものである.