ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

飯島会員は,これまで一貫して高分解能電子顕微鏡を使った精密な構造解析の研究で世界の最先端を牽引してきただけでなく,カーボンナノチューブという新たな物質を発見し,さらに回折理論を駆使してその構造まで明らかにして結晶学に独創的な分野を切り開いた.その業績は国内外から高く評価されて多くの賞が授与されており,学士院賞・恩賜賞や文化勲章という最高の賞も授与されている.また,飯島会員は,研究だけでなく,国内外の電子顕微鏡学会や結晶学会でさまざまな活動を行い,特に昨年行われた“世界結晶年2014”では日本委員会委員長として活躍して,結晶学の発展と普及に多大な貢献をしてきた.上記の飯島会員の研究業績および指導的立場での結晶学会への貢献は,日本結晶学会西川賞にふさわしいものである.日本結晶学会学術賞「X線自由電子レーザーを使った無損傷高分解能タンパク質構造解析法の開発」吾郷日出夫会員(理化学研究所放射光科学総合研究センター・専任研究員)タンパク質の働く仕組みを解明するには,高い空間分解能の正確な構造解析が必要とされる.しかし,タンパク質結晶に含まれる水は,X線照射後ピコ秒でヒドロキシラジカルなどの反応性分子に変化し,この反応性分子によりタンパク質の構造は損傷を受ける.特に活性中心に金属が含まれるタンパク質はX線照射の影響を受けやすく,従来の方法で解析されたこれらのタンパク質の活性中心の構造には不確実性が残されていた.吾郷日出夫会員は,2012年より利用可能になったX線自由電子レーザー(XFEL)を使い,「壊れる前に回折を記録する(Diffraction before destruction)」手法に大型結晶からの高分解能回折実験を組み合わせた独創的なアイディアで「無損傷高分解能タンパク質構造解析法」を開発し,巨大な膜タンパク質複合体に適用して,それらの機能メカニズムの理解に重要な「活性中心の正確な三次元原子構造」を決定した.XFELを使う実験では,超高輝度のX線により測定試料は1パルスで完全に破壊されてしまうと考えられていた.しかし吾郷会員らは.SPring-8での超高輝度X線マイクロビームの放射線損傷の伝播距離が有限である点に着目し,XFELにおいても1個の大型結晶(100ミクロン以上の大きな結晶)を使い,一定の距離(間隔)をあけた複数の照射点から放射線損傷の影響を受けない回折像が記録できることを示し,実際に,XFELのフェムト秒パルスX線を利用すれば,ピコ秒で損傷するタンパク質の損傷前の構造を高分解能で決定できることを証明した.この方法によって決定した膜タンパク質複合体「光化学系Ⅱ」や「チトクロム酸化酵素」の構造は,営まれている化学反応機構の理解に迫るうえで決定的に重要な知見を与えるものであった.吾郷会員らの開発した手法は,放射線損傷の影響を受けやすいタンパク質の働く仕組みを精密かつ正確に解明する革新的手法として,国内外から高く評価されている.タンパク質の構造機能相関研究のブレークスルーとなる解析手法を開発し,世界に先駆けた研究成果を創出した吾郷会員の研究業績は,日本結晶学会学術賞に相応しいものである.日本結晶学会進歩賞「酸素発生型光合成を司る光化学系II複合体・光化学系I複合体の結晶学的研究」菅倫寛会員(岡山大学大学院自然科学研究科・助教)菅倫寛会員は,光エネルギーを化学エネルギーに高効率で変換するタンパク質複合体,光化学系II(PSII)の構造研究と高等植物の光化学系I(PSI)とLight Harvesting Complex I(LHCI)の超複合体の構造研究で顕著な成果を上げた.PSIIは分子量700 kDにも及ぶ巨大な膜タンパク質複合体で,光エネルギーを利用して水分子を