ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

平成27年度日本結晶学会賞受賞者平成27年度第2回評議員会において,三木会長より,平成27年度日本結晶学会賞選考委員会(雨宮慶幸委員長)の答申および選考理由の説明がなされ,慎重に審議の結果,以下の3名の学会賞受賞が承認された.西川賞飯島澄男名誉会員(名城大学理工学研究科・教授)「高分解能電子顕微鏡を用いた単一ナノ構造体の精密構造解析とカーボンナノチューブの発見」学術賞吾郷日出夫会員(理化学研究所放射光科学総合研究センター・専任研究員)「X線自由電子レーザーを使った無損傷高分解能タンパク質構造解析法の開発」進歩賞菅倫寛会員(岡山大学大学院自然科学研究科・助教)「酸素発生型光合成を司る光化学系II複合体・光化学系I複合体の結晶学的研究」受賞理由日本結晶学会賞西川賞「高分解能電子顕微鏡を用いた単一ナノ構造体の精密構造解析とカーボンナノチューブの発見」飯島澄男名誉会員(名城大学理工学研究科・教授)飯島澄男名誉会員は,米国滞在中の1970年代に,高分解能電子顕微鏡の分解能を限界まで高め,ニオブ酸化物結晶の原子配列やその中の点欠陥を原子レベルの分解能で観測することに初めて成功した.また,複雑な酸化物や鉱物の電子顕微鏡像から結晶構造解析を行うことに初めて成功し,物質構造を原子レベルで評価し,マクロな物性と結びつけるという新しい研究分野の開拓に多大な貢献をした.1970年代後半から,孤立した単原子の観察という電子顕微鏡学者の夢を実現するため,ノイズの少ない支持膜を開発するなどの高分解能電子顕微鏡の感度向上に努力し,孤立したタングステン原子の明瞭な原子顕微鏡像の撮影に成功した.1982年に帰国後,新しい高分解能電子顕微鏡を開発し,金超微粒子の構造揺らぎをビデオ撮影する技法を確立し,電子線照射により超微粒子の構造が変化し,金原子が動き回る様子を電子顕微鏡を使って初めてとらえることに成功した.この研究により,日本結晶学会賞,仁科記念賞などを受賞した.1987年にNEC基礎研究所に移籍後,高分解能電子顕微鏡の超高真空化に取り組み,清浄な結晶表面の構造研究を開始した.この当時世界中が注目していたフラーレン分子に飯島会員も注目し,それまで飯島会員が蓄積してきた炭素物質の研究をもとに,1991年にカーボンナノチューブの発見という独創的な成果を上げた.これは,単にナノチューブの発見にとどまらず,一本のナノチューブからの微弱な電子線回折図形から回折理論を駆使して「らせん構造をもつチューブ状物質である」ことを見事に解析したもので,構造科学的な意義は大きい.引き続きカーボンナノチューブの基礎から応用までの広範な研究を展開し,新しい学問と材料の世界を切り開いた.