ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

クリスタリット254単結晶-単結晶相転移Single-Crystal-to-Single-CrystalPhase Transition単結晶-単結晶相転移とは,ある単結晶が特定の外部環境の変化によって,単結晶としての性質(例えば表面の透明性)を保持したまま結晶中の分子が再配列し,新たな単結晶へ変化する現象のことである.単結晶格子中では,各分子が隣接する分子によって強く束縛されているので,相転移が起こるためにはそのような自由度の低い環境の中で,分子は再配列することになる.このため単結晶-単結晶相転移の例は一般的に珍しいとされ,報告例はほかの相転移に比べて少ない.有機結晶の単結晶-単結晶相転移は,温度変化,溶媒や溶媒蒸気の暴露,紫外光照射によって進行することが報告されているが,最近では機械的刺激によって誘起される系も報告されている.また,単結晶X線回折測定によって相転移前後の分子の配列をきわめて高精度に決定できるという特徴を利用して,結晶相転移が起こる要因や,相転移に伴って各種物性(光学,磁気,電子特性など)が変化する要因を分子レベルで明らかにできる系も知られている.単結晶相転移が起こる系は,固体結晶材料における機能-構造特性の相関を詳細に明らかにできるモデル系であるとも言える.(北海道大学大学院工学研究院・フロンティア化学教育研究センター関朋宏)ボツリヌス神経毒素Botulinum Neurotoxinボツリヌス神経毒素(BoNT:botulinum neurotoxin)は,ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するタンパク質毒素である.ボツリヌス菌はグラム陽性偏性嫌気性菌であり,芽胞の形で自然界に広く分布する.食品中で本菌が毒素を産生し,これを摂食することにより食中毒(食餌性ボツリヌス症)が起こる.本毒素は,分子量150 kDaの亜鉛プロテアーゼであり,末梢神経終末においてシナプス小胞の膜融合関連タンパク質であるシナプトブレビン,シンタキシンやSNAP-25などのSNARE(soluble NSF-attachment protein receptor,可溶性NSF接着タンパク質受容体)タンパク質を分解する.その結果として,シナプス小胞の膜融合が阻害され神経伝達物質であるアセチルコリンが開口放出されないため,弛緩性の神経麻痺が生じる.1)本毒素は,ヘマグルチニン(HA)およびnon-toxic non-HA(NTNHA)といった無毒成分との複合体として産生され,無毒成分が結合することにより経口毒性が増強することが報告されている.2)ボツリヌス神経毒素は自然界に存在する毒素の中で最強の毒力をもつことが知られているが,その一方で,微量のボツリヌス神経毒素が眼瞼痙攣などの各種のジストニア(筋緊張異常症)の治療薬として利用されている.1)1)櫻井純,本田武司,小熊恵二(編):細菌毒素ハンドブック(サイエンスフォーラム社).2)G. Sakaguchi: Pharmacol. Ther. 19, 165(1982).(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科北所健悟)フラッグタグFLAG-TagFLAGタグは,タンパク質精製およびウェスタンブロットやフローサイトメトリーなどの免疫染色におけるタンパク質検出のために開発されたエピトープタグである.本タグは8アミノ酸(DYDDDDK)の短い親水性ペプチドであり,抗FLAG抗体を用いてFLAGタグを付加した組み換えタンパク質を精製および検出できる.また,検出感度を増大させるために開発された3つのFLAGタグをタンデムに融合した3xFLAGタグとしてもよく利用される.3xFLAGタグは22アミノ酸(DYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK)の親水性ペプチドであり,本タグを付加したタンパク質は10フェムトモルまで検出できる.1)1)K. Terpe: Appl. Microbiol. Biotechnol. 60, 523(2003).(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科北所健悟)ストレプトアビジンタグStrep-TagStrep-tag(II)は,ストレプトアビジンとビオチンの結合を応用して開発されたタンパク質精製のためのペプチドタグである.Strep-tagはペプチドスクリーニングにより発見したストレプトアビジンに高い親和力をもつ9アミノ酸(AWRHPQFGG)の短いペプチドである.1)しかし,タンパク質のC末端に付加したときのみしかストレプトアビジンに結合しないことから,タンパク質のN末端およびC末端のどちらに付加した場合でもストレプトアビジンに結合するStrep-tag IIが開発された.現在Strep-tagとしてよく利用されるStrep-tag IIは8アミノ酸(WSHPQFEK)の短いペプチドであり,Strep-Tactinを用いてStrep-tag IIを付加した組み換えタンパク質を精製することができる.Strep-Tactinは,Strep-tag IIに対する親和力を増強させるためにストレプトアビジンに変異を導入して最適化したタンパク質である.Strep-tag(II)はストレプトアビジンのビオチン結合ポケットに結合するため,本システムではビオチン類似体で安定安価なデスチオビオチンにより温和な条件で溶出できる.2)1)T. G. Schmidt and A. Skerra: Protein Eng. 6, 109(1993).2)K. Terpe: Appl. Microbiol. Biotechnol. 60, 523(2003).(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科北所健悟)日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)