ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

ページ
49/88

このページは 日本結晶学会誌Vol57No4 の電子ブックに掲載されている49ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No4

クリスタリット金原子間相互作用Aurophilic Interaction広帯域光散乱分光法Broad-Band Light-Scattering Spectroscopy物質に単色な光を入射すると,元の光のエネルギー(波長)とは異なるエネルギー(波長)をもった光が散乱される.そのような散乱光のスペクトルには,入射光と異なる周波数にピークをもつ「非弾性散乱」と,ピーク位置は入射光と同じであるがスペクトルが広がって分布する「準弾性散乱」が含まれる.非弾性散乱であるラマン散乱とブリルアン散乱は格子振動の基準モードによって生じるが,結晶の対称性に基づく選択則があり,これによって結晶構造を予測することができる.一方,準弾性散乱はさまざまな緩和現象によって出現することが知られており,その周波数の広がりは5桁にも及ぶことがある.「広帯域光散乱分光」とは上記のような広い周波数範囲での光散乱スペクトルを,守備範囲の異なる複数の分光器を統合的に運用して測定する分光法である.(立命館大学理工学部物理科学科是枝聡肇)フラクタルFractals部分と全体が相似である「自己相似性」を有する幾何学的実体を「フラクタル」と言う.リアス式海岸の海岸線は自己相似であることが知られており,ある部分を拡大しても,また元の縮尺のときと似た入り組んだ海岸線が現れ,このことが多くの階層にわたって続く.自然界には一見ランダムな配置や構造を示すものにも自己相似性があることが広く認識されている.結晶では,氷(H 2Oの結晶)にも自己相似性を示す種があり,2014年にヒットしたディズニー映画の挿入歌では“fractal”という単語で雪の結晶が表現されている.自己相似な物体は質量が長さの「べき乗」で分布し,そのべきの値は「フラクタル次元」と呼ばれる.立方体の場合,フラクタル次元は整数の3であり空間の次元に一致するが,自己相似体のフラクタル次元は一般に空間次元とは異なる非整数となる.(立命館大学理工学部物理科学科是枝聡肇)日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)金原子間相互作用は,非共有結合性の相互作用である分散力の一種である.2つの金原子が,約3.5 A(金原子のファンデルワールス半径の約2倍に相当)よりも近づいた場合に,金原子間に吸引的な相互作用が働く.金原子の顕著な相対論効果に基づき,金原子間相互作用の結合の力は一般的なファンデルワールス力よりも大きく,水素結合と同程度の大きさに達する.一般に,金原子間相互作用の形成によってHOMOであるd軌道が分裂し,結合性のds軌道と反結合性のds*軌道が新たに形成するとされている.その結果,エネルギー的には不安定な反結合性のds*軌道がHOMOとなるため,バンドギャップが小さくなる.このため,金原子間相互作用が形成されると金錯体の吸収・発光スペクトルは長波長シフトする.また,HOMOが反結合性であるため,光照射によってこれらの電子が励起され,過渡的に金原子間相互作用が強くなるという興味深い現象も知られている.(北海道大学大学院工学研究院・フロンティア化学教育研究センター関朋宏)フォトサリエント効果Photosalient EffectPhotosalient効果とは,光の照射によってある種の結晶が飛び跳ねる現象のことである.類似の現象として,ジアリールエテンやアゾベンゼンなどにおいて,光照射によってゆっくりと結晶が変形や屈曲する現象も知られている.一方,Photosalient効果を示す結晶では「ジャンプ」するほどの瞬発的な力学的パワーが発生する点が大きく異なる.Photosalient効果が起こる要因は,結晶に対する光照射によって結晶内部の分子配列が変化し,結晶内部にひずみが蓄積されることに由来する.このひずみをある瞬間一気に外部にリリースすることで,結晶が宙を舞う.ニューヨーク大学アブダビ校のNaumovらは,Photosalient効果に関して先駆的な研究を展開しており,これらに共通して見られる結晶構造の特徴を考察している.Photosalient効果を示す結晶では,ジャンプ前後の結晶構造が互いに非常によく似ており,分子の空間的な相対位置の変化が小さい(これはマルテンサイト変態と呼ばれる).また,特定の方向の格子長がわずかに伸長し,その他の格子長がわずかに収縮するという異方的な結晶格子のサイズ変化が起きている.その結果,結晶内で生じる微小なひずみが,結晶内で全体として打ち消しあうことなく外部に放出されることが重要であると,Naumovらは提案している.(北海道大学大学院工学研究院・フロンティア化学教育研究センター関朋宏)253