ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

新刊紹介Symmetry of Crystals and MoleculesMark Ladd著Oxford(2014)定価11,734円+税ISBN 978-0-19-967088-8幾度も版を重ねた結晶構造解析の名著“Structureこれならば,私の講義に出てこなくなる挫折学生たちも興味を失わずにすむ,まさに名案かも!と思った.しかし,チョピンのエーチュード12番の楽譜で鏡映対称性を例示されても,音符に#があったりなかったりして厳密には対称ではないから,私にはかえってわかりにくかった.同じように身近な例として,メルセデス・ベンツのマークで3回対称性を説明するくだりは,ありきたりだが無理がないように思われた.しかし,冷静に考えてみると,一般的な正三角形やBF 3分子で3回対称性をDetermination by X-ray説明するのと本質的に何が違うのだろう,と考え込んでCrystallography:Analysis byしまった.X-rays and Neutrons”(共著)斬新な話題を取り上げた例としては,8章のモンテカの著者でもあるMark Laddルロ法や分子動力学計算がある.実験と計算の比較で液教授による,結晶(空間群)体アルゴンの数多くの運動や熱力学的データを議論するや分子(点群)に関する対際に,計算の出発点となる結晶対称性にごくごく簡単に称性・群論の解説書であ触れている.結晶学的な諸実験と計算科学や,結晶相かる.昨年度は回を追うごら液体相へといった,伝統的な実験結晶学を超えたとことに出席者数が減り続け,ろにある学際的な利用方法や今後の研究展開の可能性最終回にはわずか3名にまで減った化学系大学院修士課を示唆しているように見受けられた.残念なのは,その程における不人気な私の講義の改善・準備用として対称あまりに簡潔な取扱いである.性・群論に関する本を探していて,たまたま見つけて一最後に本書の目次内容を列挙しておく.多くの数学的読してみたところ,必ずしも万人受けするわけではなさ注釈を付録の章(A1-13)にまとめたことで,本文の章そうな本だった.(1-9)は読みやすく工夫されている.同様の教科書や専門書がすでに数多くある中で,おそ1:Symmetry everywhereらく次のような人のニーズに合うような印象をもった.2:Geometry of crystals and molecules大学院生など群論を学ぶのがまったく初めてではない3:Point group symmetry人.確立された群論の数理的な約束事の記述に飽きたら4:Latticeず,広く浅くでも新しいトピックスを垣間見たい人.数5:Space group学的に厳密な定義や,あまりなじみのない数式(直感的6:Symmetry and X-ray diffractionに想像しにくい高階なテンソルなど)はなるべく避けた7:Elements of group theoryいか,どうしても必要ない数式は読み飛ばすような読み8:Applications of group theory方で足りる人.逆に多少の誤植には気づけて,かつ気に9:Computer-assisted studiesしないハイレベルな人.固体物理学の専門用語などをこA1:Stereoviews and crystal modelsこでは厳密に扱う必要がない人.シュレーディンガー方A2:Analytical geometry of direction cosines程式や分子軌道法や電子対反発則などの化学の基礎はA3:Vectors and matrices知っており,原子・分子の対称性と結晶の対称性の関連A4:Stereographic projection of a circle is a circleを知りたい人.量子力学や分光学よりも結晶学的な群論A5:Best-fit planeの利用になじみの深い人.この本だけで群論を学ぶのでA6:General rotation matricesはなく,難解な部分をコンピュータ利用などの目新しいA7:Trigometric identities方法で学び直したい人.A8:Spherical polar coordinates同じ事柄を説明するにしても,インパクトがある説明A9:The gamma function, G(n)や例示の仕方には著者の個性や本の特色が現れる.例A10:Point group character tables and related dataえば1章で並進対称性の概念を紹介するのに,ベートーA11:Linear, unitary and projection operatorsベンのピアノソナタ「月光」の冒頭の楽譜(♪タララ,A12:Vanishing integralsタララ,タララ,…)を挙げている.「繰り返し」のたとA13:Affine groupsえ話としても,こういうのはほかでは見たことがない.(東京理科大秋津貴城)252日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)