ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

日本結晶学会誌57,250-251(2015)岩崎博先生を偲ぶ日本結晶学会の元会長で,高エネルギー加速器研究機構名誉教授の岩崎博先生は,さる2015年2月24日,肺炎のために逝去されました.享年81歳でした.先生は1933年島根県松江市でお生まれになりました.1952年4月に東京教育大学(現筑波大学)理学部物理学科に入学し,学部では朝永振一郎先生(1965年度ノーベル物理学賞受賞)の量子力学の講義を受講し,物理学により興味をもたれ,その講義ノートを大切に保存していました.大学院では東京工業大学理工学研究科物理学専攻にて修士号を取得後に,博士課程に進学しました.その頃,武藤俊之助先生と高木豊先生が共著で執筆しました「The Theory of Order-Disorder Transitionsin Alloys」の解説がAcademic Press Inc., Publishersのシリーズ本「Solid State Physics, Advances in Research andApplications」の第1巻に掲載されました.先生はこの解説の内容に非常に興味をもたれ,熟読なさったことを伺っています.このことが動機になり,博士課程進学後に中途退学し,金属物性物理学の最前線の研究を行っています東北大学金属材料研究所の小川四郎先生の研究室に助手として就職しました.研究室には小川先生に加えて,助教授には平林真先生と渡辺伝次郎先生が,助手には先生のほかに,山口貞衛先生と井野正三先生が在籍していました.小川研究室では電子回折法を用い,蒸着薄膜による金属,合金の構造研究が中心でしたが,先生は平林先生のご指導の下で,X線回折による合金の規則格子構造,特に長周期規則格子構造とその相変態についての研究を精力的に進め,新しい構造を発見しました.さらに,実用物質の結晶構造には必ず内在する格子変調の実態を明らかにするなど,長周期構造の本質の解明に貢献されました.その後,平林先生が金研の他部署の教授として独立後に,小川研究室のX線研究の主担当者として助教授に就任されました.1960年代の末頃から高圧力下での固体の結晶構造の影響に興味を示し,ダイヤモンドアンビルを導入して,酸化物TiO,CuAu合金の長周期規則構造,Mg 3Inの積層長周期構造などを対象とした研究を写真法にて実施しました.1968年に渡辺先生が理学部物理第2学科の教授として移られ,研究室を構えました.私は翌年卒研生として,渡辺先生の研究室に配属されたことが岩崎先生と40年以上もお付き合いさせていただくきっかけとなりまし岩崎博先生た.当時,小川研,平林研,渡辺研の合同の講読会が毎週開かれていましたので私も出席し,構造解析の初歩から始まり,実験方法,結果の解釈などを学びました.時には回折結晶学研究の海外での動向の紹介もありまして,私の留学希望が芽生えてきました.岩崎先生からはX線回折法を用いた合金の構造解析の基礎知識を教えていただくとともに,構造揺らぎ・乱れと構造物性量の関連について教えていただいたことは幸いでした.私が提出しました博士学位論文は不規則二元合金の短範囲規則に関する研究でしたので,審査会では,先生は副査として出席して下さり,先生方の厳格な審査を受けましたことを昨日のように思い出すことができます.ところで,金属物性の分野では小川先生は大御所でしたので,新年会を兼ねて,全国の研究者が有名温泉に一同に会し,研究会が開催されたことはいまだに記憶に残っています.研究発表後の夜の宴が進むにつれ,さまざまな余興が紹介され,小川先生からのリクエストで岩崎先生は時々「安来節」の中に出てきます“ドジョウすくい”を演じていました.この会合は21世紀の初めまで続いていましたので,国内の多くの金属物性研究者との出会いができたことは非常に幸いでした.なお,前々回の本会誌に入戸野修先生がお書きになりました「長倉繁麿先生を偲ぶ」の記事が掲載されていましたが,両先生とも,主要メンバーでした.先生は小川先生の退職後の1975年4月から教授に就任なされ,新たな研究室を築きました.そして,V属元素の圧力効果の研究にも取り組み,1981年頃から利用可250日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)