ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

システイニルtRNAを合成するトランスサルファソームの分子基盤付加反応の効率を向上させる機能を有しており,そのメカニズムの解明は,「タンパク質へのリン酸化セリンの自由自在な取り込み」の達成に重要な知見を提供すると期待している.謝辞図7トランスサルファソームによるCys-tRNA Cysの合成のモデル.(Proposed molecular model of CystRNACys synthesis by transsulfursome.)SepRS,SepCysS SepCysE(NTD),SepCysE(CTD)は,それぞれ緑,水色,赤と橙色で示される.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.トランスサルファソームを形成する.そして,トランスサルファソーム上で,SepRSがtRNA Cysのanti-codonを認識することによって,tRNAと結合し,リン酸化されたSepをtRNA Cysに付加する.次いで,SepCysE(CTD)の働きにより,中間体のSep-tRNA CysをSepCysSに渡し,SepをCysに変換する反応を完成する(図7).6.おわりに今回,われわれはSepCysS-SepCysE複合体の構造解析に成功し,得られた構造情報から,SepCysEの機能解析を一気に進めることができた.また,2段階の反応経路を用いたCys-tRNA Cys合成にはトランスサルファソーム複合体が形成されることを明らかにした.しかし,CystRNACys合成の際に,SepをCysに厳密に変換するまで,トランスサルファソーム上でtRNAがどのように保持されているか,Sepが付加されたtRNAはどのようにSepRSから離れたところにあるSepCysSの変換部位に移動するか,SepCysE(CTD)は,どのようにtRNAと結合し,tRNAの移動にどのような役割を担っているかなど不明点が多く残されている.今後,トランスサルファソーム全体,および基質のtRNA,さらに中間体のSep-tRNA Cysとの複合体の構造解析が必要である.トランスサルファソームによるCys-tRNA Cys生合成経路は,標準的な20種類のアミノ酸と異なるリン酸化セリン付加を経由するという点で,非常に特殊である.この反応を利用することで遺伝暗号表を人工的に拡張する取り組みがすでに行われている.リン酸化セリンを部位特異的にタンパク質に導入する技術の開発は,ヒトの病気と密接に関係するセリンのリン酸化についての研究にとって非常に重要である.SepCysEは,SepRSによるSep日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)本稿で紹介した研究は,北海道大学先端生命科研究院の朝野希美博士,田中勲教授,産総研の中村彰良博士,そしてYale大学Molecular Biophysics and Biochemistry専攻のLiu博士,Dieter Soll教授との共同研究である.X線回折データ収集では,放射光施設PF,SPring-8のビームラインスタッフにお世話になった.この場をお借りして感謝したい.文献1)M. Ibba and D. Soll: Annu. Rev. Biochem. 69, 617(2000).2)J. Ling, N. Reynolds and M. Ibba: Annu. Rev. Microbiol. 63, 61(2009).3)J. G. Arnez and D. Moras: Trends Biochem. Sci. 22, 211(1997).4)A. Sauerwald, et al.: Science 307, 1969(2005).5)P. O’Donoghue, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. 102, 19003(2005).6)S. Kamtekar, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. 104, 2620(2007).7)R. Fukunaga and S. Yokoyama: Nat. Struct. Mol. Biol. 14, 272(2007).8)R. Fukunaga and S. Yokoyama: J. Mol. Biol. 370, 128(2007).9)S. Helgadottir, et al.: FEBS Lett. 586, 60(2012).10)C. M. Zhang, et al.: Nat. Struct. Mol. Biol. 15, 507(2008).11)S. I. Hauenstein and J. J. Perona: J. Biol. Chem. 283, 22007(2008).12)Y.-C. Liu, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. 111, 10520(2014).プロフィール姚閔Min YAO北海道大学大学院先端生命科学研究Faculty of Advanced Life Science, HokkaidoUniversity〒060-0810北海道札幌市北区北10西8丁目Kita10, Nishi8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japan最終学歴:博士(理学).専門分野:X線構造生物学.現在の研究テーマ:転写・翻訳制御,リボソーム生合成機構の解明,酵素の構造と機能,タンパク質結晶構造解析法.趣味:旅行,美食.中澤祐人Yuto NAKAZAWA北海道大学大学院生命科学院Graduate School of Life Science, HokkaidoUniversity〒060-0810北海道札幌市北区北10西8丁目Kita10, Nishi8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japan最終学歴:修士.専門分野:X線構造生物学.趣味:ラグビー,スノーボード.現在,第一三共㈱に勤務.249