ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

放射光X線および理論計算を用いたシクロパラフェニレン-フラーレン超分子錯体の構造解析役分子のπ?π相互作用への理解を深めることに繋がると考えている.特に,近年はCPP以外にも曲面状π共役分子の合成が活発に行われていることから,32)-36)今回得られた知見が,曲面状π共役分子からなる新規超分子構造体を創製するうえで重要な知見となることを期待している.謝辞図8 La@C 82⊂[11]CPPの構造.(Structure of La@C 82⊂[11]CPP.)(a)DFT計算(M06-2X/6-31G*)により得られたLa@C 82⊂[11]CPPの最適構造と(b)結晶構造.矢印はLa@C 82のダイポールモーメントを示す.数字はCPPのチューブ軸とLa@C 82のダイポールモーメントがなす角度を示す.モーメントはCPPのチューブ軸に対して66度傾いていた.ここで,DFT計算では真空中で一分子の錯体を対象としているのに対して,単結晶X線構造解析では結晶中に含まれる多数の錯体を解析している.よって,両者で見られたわずかな構造の違いは,結晶中の錯体間の相互作用であるパッキングによるものと考えているが,その詳細は不明である.このフラーレンの配向および双極子モーメントの向きは,CNT-ピーポッド中におけるLa@C 82の配向と双極子モーメントの向きとは異なっている.金属内包フラーレンにおいてはフラーレン間の相互作用が大きいことが容易に予想されることから,CNT-ピーポッドでは,隣り合うフラーレン間の相互作用がフラーレン-CNT間の相互作用を上回ることで,このような配向をとるものと考えられる.なお,伊丹らも最近,[11]CPPがサイズ選択的にGd@C 82,Tm@C 82,Lu 2@C 82といった金属内包フラーレンを取り込むことから,これが金属内包フラーレンの分離抽出に利用できることを報告している.30)しかし,生成した錯体の構造に関する情報はない.また,同じく伊丹らは,[10]CPPがイオン性金属内包フラーレンであるLi+@C 60を包接した場合には,La@C 82⊂[11]CPPと同様に,CPPからフラーレンへの部分電荷の移動が起きることを報告している.31)3.おわりにアームチェアCNTの最小構成単位であるCPPがフラーレン類を包接し,最短のフラーレンピーポッドを形成することを見出した.これらの結果は,CPPがホスト分子として働くことを初めて明らかにしたのみならず,CNT-ピーポッド形成の起源や構造,電子状態など,CNT-ピーポッドの謎の解明に貢献し,曲面をもつπ共日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)本稿で紹介した研究は,主に京都大学化学研究所で行われたものである.また,単結晶X線構造解析ではSPring-8のBL02B1およびBL40XUを利用した.解析に多大なるご指導をいただいた高輝度光科学研究センターの杉本邦安博士,安田伸広博士に深謝する.また,文献に記載した共同研究者にも感謝する.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業研究領域「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」における「超分子化学的アプローチによる環状π共役分子の創製とその機能」プロジェクトからの支援により実施したものであり,その支援にも感謝する.文献1)T. Kawase and H. Kurata: Chem. Rev. 106, 5250(2006).2)K. Tahara and Y. Tobe: Chem. Rev. 106, 5274(2006).3)B. D. Steinberg and L. T. Scott: Angew. Chem., Int. Ed. 48, 5400(2009).4)R. Jasti and C. R. Bertozzi: Chem. Phys. Lett. 494, 1(2010).5)E. S. Hirst and R. Jasti: J. Org. Chem. 77, 10473(2012).6)T. J. Sisto and R. Jasti: Synlett 23, 483(2012).7)H. Omachi, Y. Segawa and K. Itami: Acc. Chem. Res. 45, 1378(2012).8)S. Yamago, E. Kayahara and T. Iwamoto: Chem. Rec. 14, 84(2014).9)B. W. Smith, M. Monthioux and D. E. Luzzi: Nature 396, 323(1998).10)J. Lee, H. Kim, S.-J. Kahng, G. Kim, Y.-W. Son, J. Ihm, H. Kato, Z.W. Wang, T. Okazaki, H. Shinohara and Y. Kuk: Nature 415, 1005(2002).11)K. Hirahara, S. Bandow, K. Suenaga, H. Kato, T. Okazaki, H.Shinohara and S. Iijima: Phys. Rev. B 64, 115420(2001).12)S. Okubo, T. Okazaki, K. Hirose-Takai, K. Suenaga, S. Okaba, S.Bandow and S. Iijima: J. Am. Chem. Soc. 132, 15252(2010).13)T. Iwamoto, Y. Watanabe, T. Sadahiro, T. Haino and S. Yamago:Angew. Chem., Int. Ed. 50, 8432(2011).14)T. Kawase and M. Oda: Pure Appl. Chem. 78, 831(2006).15)H. Isobe, S. Hitosugi, T. Yamasaki and R. Iizuka: Chem. Sci. 4, 1293(2013).16)S. Hitosugi, R. Iizuka, T. Yamasaki, R. Zhang, Y. Murata and H.Isobe: Org. Lett. 15, 3199(2013).17)T. Iwamoto, Z. Slanina, N. Mizorogi, J. Guo, T. Akasaka, S. Nagase,H. Takaya, N. Yasuda, T. Kato and S. Yamago: Chem. Eur. J. 20,14403(2014).18)J. Xia, J. W. Bacon and R. Jasti: Chem. Sci. 3, 3018(2012).19)S. Okada, M. Otani and A. Oshiyama: New J. Phys. 5, 122(2003).20)T. Iwamoto, Y. Watanabe, H. Takaya, T. Haino, N. Yasuda and S.Yamago: Chem. Eur. J. 19, 14061(2013).243