ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

岩本貴寛,高谷光,山子茂た.つまり,C 70の配向の制御はホストの大きさにより一義的に決まることが示された.一般にフラーレンは回転しやすいために,単結晶X線構造解析において大きなディスオーダーが見られることが多い.そのためフラーレン類の単結晶X線構造解析では,置換基をもつフラーレン誘導体を用いる,あるいはポルフィリンとの共結晶を用いるなど,フラーレンの自由度を減じて構造解析を行うことが多い.しかし,本研究で得られた単結晶X線構造では,C 70のディスオーダーは小さく,CPPの単純な構造と会合定数の強さから考えると,驚くべきことである.これはCPPの柔軟性のためにC 70がCPP中にしっかりと包接されたためと考えている.これらの結果は,CPPがフラーレンの単結晶X線構造解析における優れた共結晶剤となり得ることを示しているものと考えている.2.3 La@C 82との錯形成における電子的な相互作用金属内包フラーレンは内包金属の電子的な相互作用のため,空のフラーレンと比べて高いHOMOエネルギーと低いLUMOエネルギーをもつ.22)-24)このため,CNT-ピーポッドでは,金属内包フラーレンを包接することで,CNTのバンドギャップがきわめて小さくなることが知られている.10)このような物性変化の起源として,CNTから金属内包フラーレンへの電荷移動の寄与が提唱されているが,25)-27)このような電子的な相互作用を分子レベルで観測した例はなく,その理解は十分ではない.前述のように,C 60とCPPとの錯体では電子的な相互作用はなかったが,金属内包フラーレンを用いることで,そのような相互作用が観測される可能性に注目して検討を行った.代表的な金属内包フラーレンであるLa@C 82を用いた.この分子はLa原子がフラーレンケージの中心から外れた場所に位置しているために,双極子モーメントをもつ(図6a).CNT-ピーポッドでは,おおむね双極子モーメントがCNT軸と平行になるようにLa@C 82が配向することが知られている(図6b).28),29)しかし,このような配向の起源も不明であった.錯形成における環サイズ依存性と安定化エネルギーを検討したところ,[11]CPPのみが選択的にLa@C 82と1:1の錯形成を行い,ジクロロベンゼン中ではその安定化エネルギーは25 kJ mol-1であった.17)一方,ニトロベンゼン中では安定化エネルギーは33 kJ mol-1であり,溶媒により安定性が影響を受けることがわかった.ニトロベンゼン中にて電気化学測定を行ったところ,錯形成に伴いLa@C 82の酸化,還元電位はそれぞれ0.16,0.19 V低下した(図7).一方で,[11]CPPの酸化電位は0.03 V上昇した.これは[11]CPPからLa@C 82への部分電荷移動により分極した(La@C 82)δ-⊂[11]CPPδ+錯体が生成していることを示唆している.DFT計算の結果からも[11]CPP図6 La@C 82およびLa@C 82ピーポッドの構造.(Structureof La@C 82 and La@C 82 peapod.)(a)La@C 82の分子構造および(b)ピーポッド中のLa@C 82の配向.矢印はLa@C 82のダイポールモーメントを示す.図7ニトロベンゼン中でのLa@C 82⊂[11]CPP,La@C 82と[11]CPPのサイクリックボルタンメトリー.(Cyclic voltammetry of La@C 82⊂[11]CPP, La@C 82, and[11]CPP in nitrobenzene.)からLa@C 82への部分電荷移動(0.07)が示唆された.このように錯体が極性をもつために,極性溶媒中でより安定化されたものと考えている.La@C 82⊂[11]CPP錯体の構造をDFT計算および単結晶X線構造解析により明らかにした.DFT計算では,La原子はCPPのベンゼン環が形成する面内に位置するとともに,La@C 82の双極子モーメントはCPP軸に対して88度傾いていた(図8a).単結晶X線構造解析で得られた構造はDFT計算で得られた構造と基本的には同じであり,La原子はCPP面内に位置するとともに,双極子242日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)