ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

放射光X線および理論計算を用いたシクロパラフェニレン-フラーレン超分子錯体の構造解析図4C70ピーポッドの構造.(StructureofC70peapod.)(a)「Lying」および(b)「Standing」の配向.環サイズ依存性を検討したところ,[10]CPPに加えて[11]CPPもC 70と錯形成していることが明らかとなった.20)また,錯形成に伴う安定化エネルギーはトルエン中25℃下でそれぞれ28 kJ mol-1,30 kJ mol-1であった.錯体の構造を明らかにするために,単結晶X線構造解析を行った.単結晶は,CPPとC 70の1:1混合物を塩化メチレンまたはテトラクロロエタンに溶解させ,溶媒を数日かけて揮発除去することにより調製した.しかし,得られた結晶は数十μm程度の微小結晶であるとともに,錯体が炭素と水素のみで構成されることから,その回折はきわめて弱く,通常の実験室の装置では構造決定するのに十分な回折を得られなかった.また,結晶中から溶媒の揮発が容易に進行し,長時間測定においては結晶の劣化も見られた.そこで,SPring-8のBL02B1およびBL40XUの放射光を用いたところ,短時間で良質の回折が得られた.なお,[10]CPPとの錯体に関しては置換基を導入したC 70誘導体1を用いている(図5a).[10]CPPとの錯体では,C 70誘導体1は短径方向で[10]CPPと相互作用し,C 70が「Lying」の配向をとっていることが明らかとなった(図5b).なお,NMRや理論計算を用いることで,無置換のC 70との錯形成においても同様の配向をとることを確認している.また,C 70誘導体1と[10]CPPの面間距離は0.35 nmであり,C 60⊂[10]CPP錯体において見られた相互作用様式ときわめて類似していることがわかった(図5c).C 70の短径方向にはC 60と同様に[5]CPPユニットが存在しており,その直径はC 60の直径とほとんど同じである.このことからC 60⊂[10]CPPおよびC 70⊂[10]CPP錯体において同様の相互作用様式が起こっていると考えられる.一方,[11]CPPはC 70の長径方向で相互作用し,C 70は「Standing」の配向をとっていることがわかった(図5d).この錯体では[11]CPPがC 70の形に添って楕円形に構造が変化しており,そのアスペクト比は1:1.05で日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)図5単結晶作製に用いたC 70誘導体1および1⊂[10]CPP,C 70⊂[11]CPPの分子構造.(Structure of C 70derivative 1, 1⊂[10]CPP, and C 70⊂[11]CPP.)(a)単結晶作製に用いたC 70誘導体1の分子構造.1⊂[10]CPPの(b)側面および(c)上面からの結晶構造.C 70⊂[11]CPPの(e)側面および(c)上面からの結晶構造.(c)と(e)中の数字は面間距離(nm)を示す.あった.その一方,理論計算からは,この変形に必要なエネルギーは4.8 kJ mol-1ときわめて小さいことが示唆された.C 70と[11]CPPとの相互作用は[10]CPPの場合と比べて規則性が低いが,CPPのパラフェニレンユニットの中心とC 70の六員環,または五員環の中心との最短距離は0.361~0.387 nmであり,C 70⊂[10]CPP錯体における面間距離0.35 nmに近かった(図5e).このことから,[11]CPPは構造変化をすることで,C 70とのvan der Waals相互作用を最大化しているものと考えられる.CPPはきわめて歪んだ分子であり,例えば[11]CPPは229 kJ mol-1(B3LYP/6-31G*)もの歪みエネルギーをもつ.21)このような歪んだ分子がきわめて小さいエネルギーの損失のみで変形できたことは興味深く,CPPがきわめて柔軟な構造をもっていることを示している.この柔軟性により,誘導適合(induced-fit)型の錯形成を行ったものと考えている.[10]CPP,[11]CPPの直径はそれぞれ1.38 nm,1.52 nmであり,ここで観測されたC 70の配向における環サイズの依存性は,CNT-ピーポッドのものとよい一致を示し241