ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

岩本貴寛,高谷光,山子茂子としての機能の一端について紹介する.2.CPP-フラーレン超分子錯体2.1 C 60とのサイズ選択的包接:最短のフラーレンピーポッドの形成1H NMRを用いて,空孔サイズが異なる[8]-[12]CPP([]内の数字はCPPを構成するフェニレンユニットの数を示し,[8]-[12]CPPとは,8~12個のフェニレンユニットからなる5種類のCPPを指す)とC 60との錯形成について検討した.[8]-[12]CPPの混合溶液にC 60を加え,1 H NMRを測定したところ,[10]CPPのシグナルのみが低磁場側にシフトしたことから,[10]CPPが選択的にC 60と相互作用していることがわかった(図2).13)紫外可視吸収および蛍光スペクトルによる滴定実験の結果から,[10]CPPがC 60と1:1の比で錯形成し,その会合定数はトルエン中25℃下で2.79×10 6 L-1 molであった.これは38 kJ mol-1もの安定化エネルギーに相当し,実験を行った時点においては,炭化水素からなる単環式化合物の中でC 60を最も強く包接することが知られてい図2図3CPPとC 60とのサイズ選択的包接.(Size-selectivecomplexation between CPP and C 60.)C 60添加前後における[8]-[12]CPPの1 H NMRスペクトル.DFT計算(M06-2X/6-31G*)により得られたC 60⊂[10]CPPの構造.(Structure of C 60⊂[10]CPP by DFTcalculation at the M06-2X/6-31G* level of theory.)C 60⊂[10]CPPの(a)最適構造と(b)空間充填モデル.た[6](1,4)シクロナフタレンアセチレンの包接体の会合定数と同程度の値であり,14)[10]CPPがきわめて強くC 60と相互作用していることがわかった.なお,ごく最近磯部らはキラルCNTの部分構造である環状π共役分子が[10]CPPのおよそ100万倍の会合定数でC 60を包接することを報告している.15),16)DFT計算により,錯体の構造を推定したところ,C 60が[10]CPPの空孔内に包接されたC 60⊂[10]CPP(⊂は包接を示す.例えば,A⊂Bでは,AがBに包接されていることを指す)が安定構造として求まった(図3a).この生成エンタルピーは173 kJ mol-1であり,錯形成がきわめて大きな発熱反応であることが示唆された.なお,滴定実験から得られた安定化エネルギーとの違いは,溶媒効果のためと考えている.理論計算から[10]CPPの直径は1.38 nmであり,C 60の直径よりも0.67 nm大きいことが示された.すなわち,[10]CPPとC 60の面間距離は0.335 nmであり,グラフェンシートや多層カーボンナノチューブにおける層間距離と同様に,sp 2炭素間のvander Waals半径の和と一致している.このことから,C 60⊂[10]CPP中ではvan der Waals力が主な相互作用であり,[10]CPPがC 60とのvan der Waals力を最大化するのに適した大きさの空孔を有していることが選択的な包接の原因であると考えられる.実際,C 60⊂[10]CPPの電気化学的測定では,C 60,CPPいずれの酸化・還元電位も錯形成により変化しないことからも,C 60とCPPとの間に電子的相互作用がないことが示唆された.17)空間充填モデルを見ると,[10]CPPの空孔がC 60により完全に埋められていることが見てとれる(図3b).ごく最近,JastiらはこのC 60⊂[10]CPPの単結晶X線構造解析に成功し,その構造がわれわれの計算により得られた構造ときわめてよく一致することを報告している.18)この錯体は,最短のフラーレンピーポッドであるとともに,ピーポッド構成元素の空間配置を明確に決めた初めての例である.2.2 C 70とのサイズおよび配向選択的な錯形成C 70はD 5h対称性をもち,等方的なC 60(I h対称)とは異なり異方性を有している.特に,フラーレンの中では最も大きなアスペクト比(1:1.12)をもっており,このような異方性をもつゲスト分子が等方的なCPPとどのような錯形成を行うかは興味深い.すでに,CNT-ピーポッドにおいては,CNTの直径が1.406 nm以下では,C 70の長径がCNT軸と平行になった「Lying」の配向をとるのに対し(図4a),1.406 nm以上ではC 70の短径がCNT軸と平行になった「Standing」の配向をとることが知られている(図4b).11),12)このような配向をとる起源として,CNT?C 70間の相互作用に加えてC 70?C 70間の相互作用の重要性も提唱されており,いまだにその起源は明らかになっていない.19)C 60と同様に滴定実験により,錯形成における240日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)