ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

日本結晶学会誌57,239-244(2015)最近の研究から放射光X線および理論計算を用いたシクロパラフェニレン-フラーレン超分子錯体の構造解析京都大学化学研究所岩本貴寛,高谷光,山子茂Takahiro IWAMOTO, Hikaru TAKAYA and Shigeru YAMAGO: Structural Investigationof Cycloparaphenylene ?Fullerene Supramolecular Complexes Using SynchrotronRadiation and Theoretical CalculationCycloparaphenylenes(CPPs), the shortest structural unit of armchair carbon nanotube(CNT),efficiently encapsulate various fullerenes, such as C 60 , C 70 , and La@C 82 , forming the supramolecularcomplexes, the shortest CNT?fullerene peapods. The structures of the complexes were unambiguouslydetermined and elucidated at a molecular level by single crystal X-ray analysis combined withcomputational analyses. The results distinctly clarify factors determining the peapod formation,such as importance of van der Waals interaction, elastic character of CPPs, and electronic interactionbetween CPPs and fullerenes. These findings would increase the understandings of structuresand properties of fullerene-peapods and be useful for the rational design of hierarchically orderedπ-materials having concave-convexπ?πinteractions.1.はじめに現在,ベンゼン環がパラ位で環状に繋がったシクロパラフェニレン(CPP)が多大な注目を集めている(図1a).CPPはアームチェアカーボンナノチューブ(CNT)(図1b)の環状最小構成単位となるπ共役分子である(アームチェアとは,カイラリティにより3種類に大別されるCNTの構造異性体の1つを指す).このシンプルな環状構造は,CNTの発見以前から合成研究,ホスト-ゲスト化学,あるいは非平面π軌道の形と反応性など,さまざまな視点から興味を集めていた.1)-3)しかし,CPPはごく最近まで「絵に描いた餅」であったため,その化学の進展は限定的であった.しかし2008年以降に,筆者らのグループを含む3つのグループが合成を達成して以来,誘導体の合成や基礎的物性の解明,さらには材料への応用の可能性も含め,世界中で急速に研究が進んできている.4)-8)その中で,筆者らはCPPのホスト分子としての機能にも注目して研究を進めてきている.すでに,単層CNTがフラーレンを包接したフラーレンピーポッド(図1c)が知られており,9)フラーレンの包接によりCNTの電子状態が摂動を受け,CNT単独では実現できない新しい電子材料となる可能性が示唆されている.10)また,C 70のような異方性の高いフラーレンのピーポッドでは,CNTの径に応じて選択的にC 70の配向が変化するなど,11),12)興味深い構造と物性とが明らかになってきている.しかし,ピーポッドにおけるCNTとフラーレン間の相互作用に日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)ついては,分子レベルでは必ずしも明白になっていない.筆者らは,CPPがフラーレンのホストになりえるのか?という素朴な疑問を出発点とし,CPPのホスト-ゲスト化学について研究を開始した.その結果,最短のフラーレンピーポッドの形成とその構造,さらに,CPPとフラーレン類との電子的な相互作用などの解明に成功した.本稿では,筆者らが明らかにしたCPPのホスト分図1 CPPおよびアームチェアCNT,フラーレンピーポッドの構造.(Structures of CPP and armchair CNT, andHRTEM image of fullerene peapod.)(a)CPPおよび(b)アームチェアCNTの構造と(c)フラーレンピーポッドのHRTEM画像.(Reprinted by permission fromMacmillan Publishers Ltd: B. W. Smith, et al.: Nature396, 323(1998), copyright 1998.)239