ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

阿松翔,菅原庸,藤永由佳子,北所健悟ようにして塩橋(ソルトブリッジ)で結合していた.HAの再構成実験では,HA(HA1-2-3)およびHA2-3複合体は再構成することができたが,HA1-2やHA1-3の安定な複合体を得ることはできなかった.9)HAの結晶構造からも,HA2がHA1とHA3を繋いで複合体を形成することが明らかになったが,複合体形成の詳細な機構については不明である.われわれはB型HA3単独についてもX線結晶構造解析を行い,非対称単位中にそれぞれ1,3および4分子のプロトマーを含む3つの結晶を得た.水銀誘導体を用いたSAD法により位相決定したB型HA3の結晶構造は既報のC型HA3と同様の三量体構造であったが,プロトマーの構造が異なっていた.23)HA3のプロトマーは結晶構造からi~ivドメインに分類することができる(図4b).HA3はHA3-i~iiドメインを繋ぐアミノ酸(B型HA3では189-195,C型HA3では185-207残基目)の電子密度図が見えないため,C型HA3では対称分子のHA3-iドメインを間違ってアサインしたと考えられる.Dali 26)を用いたHAの類似構造検索により,HA3とウェルシュ菌エンテロトキシン(CPE,PDB ID:3AM2)の構造が類似していることが明らかになった(Z=9.7).HA3-iおよびiiドメインはCPEのN末端側に存在する細胞毒性領域(N-CPE)と,HA3-iiiおよびivドメインはCPEのC末端側に存在する受容体結合領域(C-CPE)とそれぞれ構造が相同である.食中毒を引き起こすウェルシュ菌が産生するCPEは,タンパク質毒素であり,標的細胞の細胞間接着分子クローディンに結合して細胞膜に孔をあけ,細胞のイオン透過性を亢進して細胞死を誘起する膜孔形成毒素である.27)CPEは,クローディンに結合して細胞膜上で多量体化し,β-barrel構造の膜孔を形成すると考えられている.28)HA3の中心に存在する18),19pre-pore様のβ-barrel構造は,電子顕微鏡解析)からNTNHAとの結合に関与していることが示唆されている.HA3はCPEと相同な構造をもつが,HAがCPEのように膜孔形成毒素として機能するという報告はない.ウェルシュ菌とボツリヌス菌が同じクロストリジウム属の細菌であることから,進化の過程において高次構造は保存されているが別々の機能を獲得したと推測される.またはHA2とHA3の結合により生じる構造変化がE-カドヘリンとの結合に必要であることが示唆された.HA(HA1-2-3)の結晶構造をHA3 23)およびHA1-2 17)の結晶構造と比較することにより,HA2とHA3は複合体を形成しても構造変化しないことが明らかになり,HA2とHA3の結合領域がE-カドヘリンとの結合に必要であることが示唆された.最近の研究により,HAとE-カドヘリン29のより詳細な作用機序が構造生物学的)および生化学30的)アプローチの両面から解明され,主としてHA2とHA3-ivドメインを介してE-カドヘリンに結合するというわれわれの結果を満たすものであった.一方で,HAを細胞の頭頂部側,すなわち基底膜側への移行(トランスロケーション)が必要である側から添加した場合では,HA2-3と比較してHA(HA1-2-3)が顕著に細胞間バリアを破壊してTERを低下させた.9)基底膜側から直接細胞間バリアを破壊するにはHA2-3で必要十分であるため,HAの基底膜側へのトランスロケーションにHA1が重要であることが示唆された.HAの結晶構造では各サブコンポーネントで解析された構13),15),17),23造)をよく保持していたが,HA1のC末端ドメインではα-helixリンカーを起点としてA型(PDB ID:1YBI,4LO0)とは15~27度,CおよびD型(PDB ID:1QXM,2E4M)とは60~65度で立体配座が異なっていた(図6).HA1のC末端ドメインに糖鎖結合部位(図4a)が存在することから,血清型による立体配座の違いが5.HAの構造と機能HAがE-カドヘリンに結合して上皮細胞間バリアを破壊するために必要なドメインをより詳細に決定するために,Caco-2細胞を用いて細胞間バリア機能をTER測定により評価した.その結果,HAを細胞の基底膜側,すなわちE-カドヘリンに直接結合できる側から添加した場合では,HA2-3はHA(HA1-2-3)と同等のバリア破壊活性を示した.9)また,HA2およびHA3単独でのバリア破壊活性はない.7),9)これらのことから,HA2-3の複合体形成において生じる構造,つまりHA2とHA3の結合領域図6HA1のC末端ドメインの構造比較.(Structuralcomparison of C terminal domain of each serotypeHA1.)(a)矢印で示したα-helixを起点に,B型HA1はCおよびD型HA1(PDB ID:1QXM,2E4M)と比較してC末端ドメインの位置が60~65度異なっていた.(b)(a)を上から見た図.B型HA1のC末端ドメインをA(PDB ID:4LO0),CおよびD型HA1の構造と比較した.(c)(a)の模式図.236日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)