ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

阿松翔,菅原庸,藤永由佳子,北所健悟図2既報の結晶構造および電子顕微鏡像を用いたボツリヌス神経毒素複合体の構成図.(The compositionof botulinum neurotoxin complexes.)図3再構成HAのゲルろ過クロマトグラフィー解析.(Size exclusion chromatography analysis of reconstitutedwhole HAs.)再構成HAの精製度・安定性をSuperdex 10/300 GLを用いて解析した.D4-HA1を用いて再構成したHAでは矢印で示した莢雑物のピークが減少した.HAはHA1,HA2およびHA3の3つのサブコンポーネントにより構成される.HA1はガラクトースまたはシアル酸,HA3はシアル酸を含有する糖鎖に結合し,4),13)-15)このレクチン活性はL毒素の小腸上皮への結合および透過に寄与していると考えられている.3),4),8),16)またHAは糖鎖非依存的にE-カドヘリンに結合して上皮細胞間接着を阻害する(バリア破壊活性).5)-8)HAは部分的な構造(HA1,HA1-2,HA3)は報告されてきたが,13),15),17)全体像および詳細なストイキオメトリーなどは不明であった(図2).L毒素は電子顕微鏡解析により低分解能の立体像が報告されている(図2).17)-19)LL毒素はHA1を介して2分子のL毒素が結合したものと考えられている.1),20)2.2無毒成分の経口毒性増強活性ボツリヌス菌は産生する毒素の抗原性の違いによりA~G型の7型に分類され,このうち主にA,B,EおよびF型がヒトのボツリヌス症を引き起こす.1)本毒素は分子量が大きくなるほど経口毒性が高くなる(LL毒素>L毒素>M毒素>BoNT).マウスに対するB型毒素の経口致死量(oral LD 50)を比較すると,M毒素はBoNTに対して20倍,L毒素はM毒素に対して700倍少ないことが報告されている.2)このように無毒成分,特にHAを含む毒素複合体では経口毒性が顕著に増強される.BoNTおよびM毒素の結晶構造は解明されていたが,10),11)HAの構造は未知であったことから,われわれはB型菌由来HAのX線結晶構造解析を行った.3.HA全複合体のX線結晶構造解析HA(HA1-2-3)は,大腸菌Rosetta2(DE3)から大量調製したHA1,HA2およびHA3を用いて,再構成により調製した.トランスウェルで単層培養したヒト大腸癌由来細胞株Caco-2細胞を用いて,HAのバリア破壊活性を経上皮電気抵抗値(TER)測定により定量化して再構成の指標とした.その結果,HA1:HA2:HA3を4:4:1のモル比で混合して37℃で3時間静置することで,ボツリヌス菌の培養上清から精製したHAおよびL毒素と同等のバリア破壊活性を有するHAの再構成複合体を得た.HAは結晶化スクリーニングの段階で数種類の結晶を得ていたが,どれも分解能30 Aに満たない回折点しか与えないものであった.この再構成複合体では,FLAGタグを付加したHA1を用いることにより,HA1およびHAの再構成複合体の可溶性が向上し,純度の高いHAを再構成できていたが,依然として凝集しやすいという問題があった.そこで,HA1,HA2およびHA3に付加していた精製タグの種類を再検討した.その結果,DDDD配列(D4タグと命名した)を付加したHA1を用いて再構成したHAにより,塩化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを沈殿剤とする新たな条件で分解能10 A程度の回折点を与える結晶を得た.D4タグは,FLAGタグの配列(DYDDDDK)を基にアスパラギン酸の連続した短いペプチド(DDDD)のみを利用したものである.D4-HA1を用いた場合,FLAG-HA1を用いて再構成したHAよりも高純度のHAを再構成することができた(図3).ちなみに,アスパラギン酸などの短いペプチドをタグとして付加することでフォールディングに影響することなくタンパク質の溶解度が向上することが報告されている.21)D4タグでは抗FLAG M2ゲルにより精製を行うことはできないため,Strep-tagを付加したD4-HA1を調製した後,Strep-tagをHRV 3Cプロテアーゼにより切断した.分解能の向上を目指して,沈殿剤に塩化カルシウムやグリセロールなどを添加剤として加え,結晶化溶液および抗凍結剤の最適化を行った.抗凍結処理時の結晶への234日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)