ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

ページ
24/88

このページは 日本結晶学会誌Vol57No4 の電子ブックに掲載されている24ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No4

関朋宏,伊藤肇3.金イソシアニド錯体1の光誘起結晶相転移3.1アリール金イソシアニド錯体われわれは,2008年頃から金イソシアニド錯体の発光性メカノクロミズムに関し,精力的に研究を行ってきた.11)メカノクロミズムとは,機械的な刺激を印加することで固体の発光色が変化する現象のことである.12)発光の変化は,機械的な刺激の印加によって結晶構造が変化し分子間相互作用のパターンが切り替わることに由来している.われわれの研究室では,数多くのアリール金イソシアニド錯体誘導体が発光性メカノクロミズムを示し,機械的刺激の印加によって発光特性の異なる新しい結晶構造へ切り替わることを報告している.13)特に近年,われわれの合成した金イソシアニド錯体2や3が,機械的刺激をトリガーとして単結晶-単結晶相転移を示し発光特性が変化することを報告している.14)機械的刺激は一般的に結晶の外形や結晶内部の秩序ある分子配列を乱してしまうような外部刺激である.しかし2や3に対しては,単結晶間の相転移を誘起できるため,大変珍しい現象であり過去に報告例もなかった.一方錯体1においては,強度の強い紫外光を照射することで単結晶-単結晶相転移を示すことを見出した.種々の測定の結果,励起状態における金原子間相互作用の増強が,この結晶相転移の鍵であることが明らかとなった.15)本稿では,1の光誘起結晶相転移とそのメカニズム,およびこれに伴う結晶のジャンプ(Photosalient効果)に関し詳細に述べる.3.2金イソシアニド錯体1の紫外光照射に伴う結晶相転移錯体1は,暗所での再結晶により弱い青色発光単結晶を得ることができる(これを1Bと呼ぶ,図5左).1Bの発光の絶対量子収率Φemは,2.2%であった.励起光を370 nmとして測定した発光スペクトルを図6に示す(青実線).発光極大波長(λem,max)は,448 nmに観測された.450 nmの発光の減衰プロファイルは,三次での励起スペクトルを青点線で示しており,371 nmに極大をもち,400 nm以上の可視域ではほとんど吸収は見られなかった.1Bの単結晶を作製し,X線結晶構造解析を行った.空_間群は,P1であった[R1=8.67%,wR 2=24.96%,GOF=1.106,a=7.381(2)A,b=11.755(2)A,c=15.940(3)A,α=102.912(5)°,β=92.025(5)°,γ=100.595(5)°,Z=4,V=1320.8(4)A 3,d=2.189 g・cm-3](図7).1Bの信頼度因子(R 1やwR 2)は比較的精度が悪いが,この要因は結晶化やX線回折測定の際に室内光に含まれる微弱な紫外線の照射によって,結晶の一部が1Yへ相転移したためだと考えられる.また,X線結晶構造解析のデータからは,溶媒の包摂を示すような残存電子密度は観測されなかった.溶媒を包摂していないことは,元素分析,熱分析,1HNMR測定の結果からも支持されている.結晶図6 1Bと1Yの励起・発光スペクトル.(Excitation andemission spectra of 1B and 1Y.)青・黄色点線:1B(モニター波長:450 nm)と1Y(モニター波長:590 nm)の励起極大強度で規格化した励起スペクトル.青・黄色実線:1B(励起波長:370 nm)と1Y(励起波長:390 nm)の発光スペクトル(吸収スペクトルの強度を基に規格化).Inset:1Yの発光スペクトルの拡大図.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.フィッティングすることができた.平均の発光寿命τavは,34.2μsであった.590 nmの発光をモニターした1B図5錯体1Bの1Yへの光誘起単結晶-単結晶相転移.(A series of photographs of the SCSC phase transitionfrom 1B to 1Y induced by strong photoirradiation(367 nm, approx. 100 mW・cm-2)taken under excitationat 365 nm.)図71Bの単結晶構造.(The single-crystal structure of1B.)a)ダイマーユニットのORTEP図.b)金原子間結合の水平方向から見たパッキング構造のORTEP図.c)金原子間結合の垂直方向から見たパッキング構造のCPKモデル図.中心のダイマーのみORTEP図で表記.228日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)