ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

広帯域光散乱分光によるリラクサー強誘電体のフラクタルダイナミクスの研究u~exp[-(r/l)d?]のように減衰するはずなので,歪みはe~∂u/∂rより,e~l-d? uのようにスケールする.歪みと分13)極の結合に対してスケール依存性を仮定しない場合と,する場合6)とのそれぞれに対して,C(ω)∝〈|e| 2〉は次のようになる:??C (ω)~ ???uu2 ?2lldφ2 d f ?2dφBoukenter et al.Tsujimi et al.(6a)(6b)ここで,後者では,歪みと分極の結合係数(光弾性定数)がフラクタル次元d fでスケールすると考え,また,二乗平均の積分を体積l dfで規格化している.6)一方で,前者ではこれらにスケール依存性を仮定していないため,l dfの因子だけ違いが出ている.13)フラクタル構造においては,lとωは式(3)の分散関係で結ばれているため,l∝ω-ds/dfを式(6a)または(6b)に代入し,また,フラクトンの状態密度式(4)を用いれば,ラマン散乱強度が次のように表されることがわかる:IBnωμnωBμT( (ω)∝)+ 1ωIT( ( ,ω)∝)+ 1ω(7)ωωここで,添え字のBとTはそれぞれ,式(6a)および(6b)に対応しており,? 2d??2dds ?μB= ds+ 1 ?1,μT= ?1(8)? d ?? f ?d fである.室温付近では,1 THz以下の比較的小さな周波数シフトの散乱光に対して?ω/kBT≪1とみなしてよいので,ボース・アインシュタイン因子n(ω)+1はkBT/?ωで近似してよい.よって,[n(ω)+1]/ω?ω-2であり式(7)より,高温・低周波における準弾性光散乱スペクトル強度は,I(ω)∝ωμ-2のようなべき乗則に従うことが導かれる.一般にμは式(8)のように,非整数のフラクタル次元d f,スペクトル次元d s,超局在指数d ?などの組み合わせで表現されるので,べき乗スペクトルのべきの値も一般には非整数となる.したがって,図2に示した自己相似な準弾性光散乱スペクトルは,自己相似な空間配置,すなわち,フラクタルの存在を示している.この結果は,X線散漫散乱における波数のべき乗則(~q-df)14の報告)とも符合する.ただし,これらはいずれもゲル状物質におけるフラクトンの光散乱モデルから導かれたものであるため,単結晶であるリラクサー物質においての有効性はまったく保証されていないことに注意しなければならない.ただ,ゲル状物質でもリラクサーでも,空間的にd f乗でべき的にスケールする実体(フラクタル)が存在する場合には,その運動の分散関係式(3)や超局在性,あるいは運動と分極の相関を通して,べき的な周波数応答が現れると日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)いう点は,本質的に共通していると考えられる.PMNは高温相から低温相まで立方晶ペロフスカイト構造を取ると考えられている15)が,立方晶の単結晶試料であるPMN結晶において,なぜフラクタルが存在しているのだろうか.立方晶という並進対称性とフラクタルという自己相似性は相容れないため,大きな疑問が残る.次節でこの「単結晶に内在するフラクタル」の正体について考察する.6.ナノ分極域クラスターのフラクタルダイナミクス光散乱スペクトルの強度表示式(7)を,因子[n(ω)+1]/ωで割り,物質に固有な部分だけにしたスペクトル表示を,還元強度(reduced intensity)と呼ぶ.式(7)から,( )フラクタルによる光散乱の還元強度は,I≡ωIωn(ω)+1∝ωμのように,周波数のべき乗で与えられることがわかる.広帯域光散乱スペクトルから得られた,PMNにおける指数μの温度変化を図5に示す.高温側から温度を下げていくとき,μはリラクサーとしての挙動が現れ始める,いわゆるBurns温度(約600 K)付近より高温では2に近いが,それ以下の温度では2よりも小さくなり始め,室温を通り過ぎて約240 K付近の温度で底を打ち,それ以下の低温では約1.33の一定値となった.実は,このような温度変化の様子はこれまでに報告されているナノ分極16)-18域(Polar Nano-region,PNR)の体積分率)や相関距19離)の温度変化と非常によく対応している.したがってリラクサーにおけるべき乗光散乱スペクトルは,ナノ分極域の周波数応答を反映していると考えられる.PMNでは,X線構造解析の結果としては,高温から低温まで構造相転移を起こさず,平均構造としては立方晶(空間群Pm3m)に留まると理解されているが,実際にはμ図5Pb(Mg 1/3Nb 2/3)O3における準弾性光散乱の還元強度表示におけるべき指数μの温度変Temperature化.(dependenceofthepowerexponentofthereducedintensity(μ)observed in Pb(Mg 1/3Nb 2/3)O 3.)点線は低温での漸近値(約1.33)を示す.223