ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

是枝聡肇,藤井康裕,谷口博基になったとする.このとき,フラクタル次元をdfとすれば,その体積はp df倍に等しいから,m=p dfが成り立つ.これをd fについて解けば,d log mf=log pを得る.自己相似性のない物体のフラクタル次元はdf=1,2,3で整数となり,すべて空間の次元Dに一致する.単純な物体とは対照的に,自己相似な物体は一般に「非整数」のフラクタル次元を示す.例えば,図4bに示したDLAクラスターをボックスカウント法* 1で解析してみると,このDLAクラスターは自己相似であり,d f ?1.64であること,すなわち,図の縮尺を2倍にするとクラスター内の点に沿った長さは約3.12倍となることが確かめられる.* 2これはDLAクラスターが線と面の間の幾何学的実体であることを意味している.自己相似な構造をもつ物体を「フラクタル」(fractal)と呼び,数学的なルールに基づいて構築されるフラクタルを決定論的フラクタル,不規則な形状のものはランダムフラクタルと呼ばれる.図4に示したロマネスコブロッコリーは決定論的フラクタルに属し,DLAクラスターはランダムフラクタルに属する.フラクタルは実空間においてr dfのようなべき乗でスケールする実体である.マクロな実体のフラクタル次元はボックスカウント法などの図形的な方法で測定できるが,非晶質のミクロな構造などに対しては,X線や中性子の小角散乱強度の測定によって,波数空間におけるべき乗則~q-dfからdfが決定される.2)5.フラクタル構造における運動と周波数応答結晶においては結晶構造などから各振動モードの固有振動数が離散的に決まり,格子振動の分散曲線がすべてのモードに対して計算できる.例えば音響的なフォノン分枝では,長波長の極限において,角振動数ωと波長λの間にはよく知られたω∝λ-1の関係(分散関係)が導かれる.D次元におけるフォノンの分散関係を少々しつこく書けば,λD∝ω-Dとも表せる.よく知られているように,三次元(D=3)での音響分枝の状態密度は,g(ω)~ω2=ωD-1で与えられる.一方,質量をもった実体がフラクタル次元d fの自己相似なネットワークを形成する場合には,その質量分布は距離rに対してr dfでスケールする.高分子などのランダムフラクタルでは,結晶とは違って運動方程式に並進対称性を仮定できない.ゲル状物質や高分子固体系のように,質量の空間分布(あるいは質点の固有振動数)がべき的になっている,つまり,r dfでスケールするような系の運動方程式は古くから研究されており,動的スケーリング理論としてある程度確立されている.10)リラクサー*1物体をさまざまな大きさの方眼(箱)で区切って,クラスターに属する点が含まれている箱の数を数える.*2大規模な計算ではd f ? 1.71となる.2)物質における動的スケーリング理論はまだ確立していないので,ここではゲル状物質などの質量フラクタル系における理論11)を概観することで,べき乗の光散乱スペクトルの起源を考察したい.フラクタル構造を,単結晶をランダムに分断して作ったと考えれば,フラクタル構造における振動モードの波は,ある有限の長さに局在させられることになるであろう.これは結晶における振動(フォノン)が数百ユニットセルにもわたって明瞭な正弦波を形成するのとは対照的である.このことを超局在(super-localization)11)と呼び.要素間の相関は距離とともにexp[-(r/l)d?]のような拡張された指数関数で弱まると考える.ここで,d ?は「超局在指数」で,d?が1より大きいと,単純な指数関数よりも急激に相関が切れて強く局在することになる.lは相関長と呼ばれる特徴的な長さであり,フォノンの場合の波長λと似た分散関係が成り立つと考えられている.この意味でこの振動励起状態は「フラクトン」と呼ばれる.ただし,フラクタル構造の場合には,空間はフラクタル次元d fでスケールし,周波数は別の指数d sでスケールすることが知られており,l df?ds∝ω(3)なる特殊な分散関係をもつ.11)ここで,d sはスペクトル次元(またはフラクトン次元)と呼ばれ,空間のユークリッド次元にほとんどよらない普遍的な値(d s ? 4/3)をもつことが知られている.フォノンの状態密度がωD-1でスケールしたのと同様に,フラクトンの状態密度はg(ω)ωd s ?1~(4)と表される.ShukerとGammon12)によると,非晶質におけるラマン散乱強度(ストークス側)は,振動子系の状態密度g(ω)と近似的に次のような関係にあることが示された:n(ω)+1I(ω)∝C(ω) g (ω)(5)ωここで,C(ω)は,光と振動系との結合定数であり,実質的にはラマン感受率(の虚部)に相当する.n(ω)は式(1)と同じボース・アインシュタイン因子である.式(5)の導出においては,実質的に,固有振動数が分布するランダムな振動子系の一次ラマン過程(誘電率の基準座標に対する一次の展開係数)を考えている.その点で,式(2)でもち出した,緩和時間に分布をもたせる考え方(緩和モードの重ね合わせ)とは,前提が異なっていることには注意が必要である.光散乱強度は,本質的にゆらぎの二乗平均に比例するので,今の場合,C(ω)は局所歪みe(r,t)のゆらぎの二乗平均〈|e| 2〉に比例する量である.超局在性を考慮すれば,超局在性により原子変位uが,222日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)