ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

ページ
17/88

このページは 日本結晶学会誌Vol57No4 の電子ブックに掲載されている17ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No4

広帯域光散乱分光によるリラクサー強誘電体のフラクタルダイナミクスの研究(a)(b)図4(a)自己相似性を示すロマネスコブロッコリー(決定論的フラクタル)と(b)DLAクラスター(ランダムフラクタル).((a)Romanesco broccoli,(b)DLAcluster.)図3 Pb(Mg 1/3Nb 2/3)O 3の自己相似スペクトルの両対数プロットとその温度変化.(Temperature dependenceof the self-similar central peak shown in doublelogarithmic scales.)図中の凡例で,例えばB-xxx Kはタンデム型ファブリーペローを用いて,R-xxx Kは回折格子型分光器を用いてそれぞれxxx Kの温度で測定されたことを示す.という関係がある.これを満たす分布関数f(Γ)としては,f(Γ)=Γαという「べき乗則」がある(ただし,Γmin→0,Γmax→∞と近似し,A=-2πsinπα,-2<α<0.).2つまり,Γの逆数である緩和時間τの分布関数も「べき乗則」に従っている.このように,自己相似な準弾性光散乱スペクトルは,1つの見方としては,緩和時間がべき乗則で広く分布していることを反映している,と考えることができる.図3に示すPMNのべき乗則スペクトルの温度変化では,式(1)におけるボース・アインシュタイン因子による熱分布の変化も含まれてはいるが,直線的なスペクトルの傾き,すなわちべきの値αが温度とともに系統的に変化していることが見て取れる.低温ほどスペクトルの右肩下がりの度合いが急になっていることから,低温ほど幅の狭い,遅い緩和に対応する散乱が相対的に強くなっているとも解釈できる.次節以降では,なぜ周波数応答に「べき乗則」が現れるのかについて,立方晶ペロフスカイトであるPMN単結晶に内在する,ランダムな副次的空間構造(フラクタル)との関連から考察する.4.フラクタル自然界における複雑な構造は,一見すると何の規則性ももたないように思えるが,実はそれらのほとんどに「自己相似性」と呼ばれる性質があることが知られて日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)いる.1,2)自己相似性とは,物体をある縮尺で観察した場合とそれを拡大した場合とで構造が似通っており,結果的に縮尺によらずに見え方が変わらないような性質,いわば「部分が全体に一致する」ような一見不思議な構造を指す(スケール不変性;scale invariance).図4aに示すのは,スーパーの野菜売り場にも並んでいるロマネスコブロッコリーという植物である.この植物では円錐状の形が何世代にもわたって入れ子になっており,まさに部分が全体と相似な「自己相似構造」をもっている.また,結晶学との関連では,氷の結晶が自己相似性を示すことがよく知られている.自然界の自己相似性の例としては,上記の例のような規則性のあるもののほかに,不規則なものも多い.例えば,雲の輪郭の形状,リアス式海岸の海岸線,小腸の絨毛,レンガなどへ浸み込む水のパターンなどは,明確な対称性などは示さないが,やはり部分と全体が同じような不規則な形状を示す.さらに,ミクロな構造においても,例えばガラスやゲル,高分子などのいわゆる非晶質やソフトマターではその複雑な微視的構造が一般に自己相似性を示すことが確かめられている.1,2)図4bには,拡散律速凝集(diffusion-limitedaggregation,DLA)モデル9)という,コンピューターシミュレーションによって描かれた自己相似クラスターを示す.DLAは,中心の種粒子の周りに分子をランダムウォークさせ,分子が種粒子の属するクラスターにぶつかると取り込まれて凝集する,という単純なモデルであるが,種々の自然現象や形状を説明する普遍的なモデルとして広く受け入れられている.2)自己相似性のない単純なD次元の物体では,一方向の長さを2倍にすればその体積(長さ,面積)は2 D倍となる.このように,物体の次元は,一般に一辺の長さをp倍にしたときに,その体積(長さ,面積)がpの何乗でスケールするか,によって決まっている,とも解釈することができる.このような定義による幾何学的次元を「フラクタル次元」(あるいはハウスドルフ次元)と言う.例えば,一辺をp倍したときに体積(長さ,面積)がm倍221