ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

大場茂これらの占有因子の合計は3.5=7/2であり,対称心で関係付けられる等価位置も含めると,トルエンの炭素7個分に相当する.つまり,構造因子の計算におけるトルエンの非水素原子の寄与は,これですべて取り込まれている.また,水素原子も乱れを考慮して導入されていた.しかし,本来は分子としてのモデル構造を完成させる必要がある.そのためには,トルエンの炭素の占有因子をすべて0.5に変更し(つまり10.5とし),C2TとC4Tの等価位置にもそれぞれ分割原子を仮定する.これで,図3bのようなトルエンの構造が完成する.なお,混乱を避けるために,図3aとbでは原子の番号を変えて示した.このように,分子の2つの可能な配向の重なりが大きい場合には,ベンゼン環の形が歪みやすい.そこで,ベンゼン環を「AFIX 66」コマンドで六角形の剛体として扱い,メチル基についても距離や角度が理想的な値になるように,DFIXで抑制する.また,炭素の非等方性温度因子についてもSIMUなどを使って抑制をかける必要がある.5.Q&Aコマンドの使い方に関してわかりにくい点などを,Q&Aの形で以下にまとめた.5.1解析Q1.完全度(completeness)が低いので,高角の反射をカットしたい.その場合,SHELと「ACTA 50」を両方指定すべきか.A1.反射データの積分の計算で,より高角まで反射を拾っていると,checkCIFで次のような警告が出るときがある.“Alert A _diffrn_measured_fraction_theta_full low 0.86”この場合,Acta Cryst.の満たすべき基準である2q(Mo Ka)≦50°の範囲の完全度を計算し,それが1に近いことを示せば十分である.つまり,指定するのは「ACTA 50」だけでよい.Q2.特定の反射の強度が一致せず,解析から除きたい.A2.この場合,OMITコマンドを使えばよい.反射についての入力形式は,次のとおりである.OMIT h k lつまり,必要な数だけ,このように反射指数を指定する.ただし,ビームストッパーの影響など理由が特定できる場合は許されるが,それ以外はやみくもに反射を削除すべきではない.Q3. HFIX(あるいはAFIX)コマンドの引数mnについて,n=3は水素を親原子にridingさせ,n=7ではridingのほかにねじれ角も精密化するとのことであるが,水素の温度因子はどうなるのか.A3.親原子にridingさせているときは,特に指定しない限り(defaultで),水素原子の温度因子U isoは親原子のU eqの1.2倍(メチル基や水酸基は1.5倍)に設定される.Q4.結晶学的な鏡面上にC1-C2-C3が存在する場合,C2のメチレン水素をAFIXでどう指定すればよいのか.AFIX 23で独立な水素原子を1個だけ入れようとしても,C2の周りの結合がおかしいというエラーメッセージが出て困った経験がある.A4.メチレンの水素をC2原子に導入するには,「HFIX23 C2」と指定すると,自動的にAFIXコマンドが作られるはずである.ただし,特殊な状況下では,プログラムのバグが見付かる可能性もある.もし,そのようなときは,SHELXLの作者(あるいは管理者)に問い合わせてみてほしい.SHELXのホームページにはユーザーからのフィードバックをもとに,プログラムをデバッグした事例も掲載されている.Q5.分子構造に乱れが2カ所以上みられる.その場合にどのように精密化すればよいのか.A5.図4aのように,分子構造の比較的離れているところが2カ所乱れている場合,原子座標データをPARTで区切り,それらの占有率を自由変数(FVAR)の2と3番目で精密化すればよい.すなわち,次のようにする.FVAR 0.581 0.7 0.6(途中省略)PART 1C12A………21.0…C13A………21.0…PART 2C12B………-21.0…C13B………-21.0…PART 3C20A………31.0…PART 4C20B………-31.0…ただし,これは2カ所の乱れがランダムに起こっていると仮定している.しかし,一方の乱れの影響が他方にも波及している場合がある.そこで等価位置も含めた結晶中の分子間の接触距離を調べ,例えばPART 1と4のどこかの原子間距離が同時に存在し得ないほど短い場合は,PART 1の占有率をp 2とすると,PART 4の占有率は(1-p 2)以下であり,そしてPART 3の占有率はp 2以上ということになる.図4bのように,乱れているn-プロピル基の先端がさらに乱れている場合は,次のようにする.図4乱れが2カ所以上ある例.(Examples of disorder atmore than two places.)216日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)