ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

SHELXLのコマンドを使いこなそう!ンブリッジ構造データベース2)を用いて,有機化合物についてテキスト中に「disorder」という語句が含まれていて,Acta Cryst. B,C,あるいはEに2000年以降(2014年まで)に発表された構造に限定し,(1)メタノール,(2)アセトニトリル,(3)アセトン,(4)テトラヒドロフラン(THF),(5)トルエンについて,それぞれ検索した.その結果を表3に示す.ただし,溶媒以外の部分が乱れている(そして溶媒は乱れていない)ものや,重複して登録されている構造などは,この表から除いた.まず,特殊位置における乱れについてであるが,メタノー_ルでは,空間群C2/cが10件,P1が3件,残りはP2 1/m,P2 1/n,P2/n,C2,Fdd2がそれぞれ1件であり,バラエ_ティに富んでいた.アセトンではC2/cが4件,残りはP1,P2 1/n,R3cがそれぞれ1件であり,同様な傾向をもつ.そ_れに対して,トルエンではP1が11件,C2/cが3件,P2 1/nが1件であり,ほかの溶媒とは異なる傾向を示した.溶媒分子が特殊位置の周辺に存在する場合,その分子の化学的対称性(例えばベンゼンならば対称心や2回軸など)が,結晶中でのその席対称と一致しているかどうかにかかわらず,分子として取り得る占有因子の最大値は表4に示すとおりである.先に示したように,溶媒_の乱れがよく見られる空間群は,三斜晶系P1(特殊位置は対称心)や単斜晶系C2/c(対称心,あるいは2回軸)などである.なお.C2/cには2回らせん軸も存在しており,もし結晶溶媒がその軸の近傍で乱れていても,その席対称はあくまでも1(つまり一般位置)であり,占有因子が決して0.5には限定されない.ただし,2回らせん軸方向の周期が短いと,らせんで関係付けられる等価位置の分子と接触する可能性がある.実際に,トルエンのC2/cにおける乱れ3件の検索結果のうちの1件が,そのような希な例であった.その結晶では,b軸(約6.8 A)に平行表3結晶溶媒が乱れている構造の検索数.(Number ofstructures with disordered crystal solvent.)乱れの型や処置メタノールアセトニトリルアセトンTHFトルエン特殊位置近傍1817315配向2つ*172461配向3つ以上*6-2--他溶媒と混在2-2--SQUEEZE73222*一般位置での配向の乱れな2回らせん軸上にトルエンが存在し,「(1/2-x,1/2+y,1/2-z)の対称性で関係付けられる2つのサイトで乱れていて,占有率は0.5」であった.3)他溶媒との混在による乱れを解析した例としては,メ4タノール/水),メタノール/エタノール5),アセトン/6水),アセトン/ジクロロメタン7)があった.表3を見るとSQUEEZE/PLATONの使用例も比較的多いことがわかるが,結晶に含まれている溶媒分子の数を確定するためにも,できるだけ構造モデルを組み立てて解析すべきであろう.なお,上記の調査中にActa Cryst.にdepositされたCIFからresファイルの情報が入手できると期待していたが,それができたのは検索した構造のうち2011~12年の,しかも一部の論文に限られることがわかった.IUCrのwebサイトに保存されているCIFからは,論文のテキストやresファイルの部分が削除されてコンパクトになっていた.ただし,この状況は2013年以降に発表された論文では改善され,CIFにはresファイルだけでなく,反射データまで組込まれている.なお,たとえresが入手できなくても,精密化における束縛について,論文中の記述ならびにCIFから,どのようなコマンドが使われたかは大体推定ができた.そして,総じて結晶溶媒の乱れの解析は不十分であると感じた.例えば特殊位置での乱れにもかかわらず,「PART -1」の指定をしていないケースが多い.この指定をしていると,CIFの原子座標データのloopの中の_atom_site_disorder_groupの数値が「-1」と表示されることからわかる.取扱いにくい典型例として,対称心周りでトルエンが(結晶学的に等価な)2つの配向をもつ乱れがある.ある構造データでは,図3aのようなベンゼン環の一部分だけを仮定し,原子の占有因子を次のようにしていた.8)C1T………10.5…C2T………11.0…C3T………10.5…C4T………11.0…C5T………10.5…表4特殊位置近傍に存在する溶媒分子の占有因子の最大値.(Maximum occupation factors of the solventmolecules disordered by symmetry.)席対称占有因子(最大値)1 1.02,m,1 _ 0.53 _ 0.333334,4 0.256,3 _ _,6 0.16666日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)図3対称心の周りでのトルエンの乱れ.(Disorder oftoluene around the center of symmetry.)(a)報告された原子の配置8)と,(b)分子としてのモデル.なお,対称心(記号i)で関係付けられるトルエンの2つの配向がわかるように,点線で示した.215