ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No4

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概要

日本結晶学会誌Vol57No4

大場茂にEQIVコマンドでそれが定義されていなければならない.また,水素結合に関与する水素は,プログラムが自動的に判定するので,指定する必要はない.上記の例では,N6-H6…O1のほかにO2-H2…O1(x-1,y,z)およびN6-H6…O2(x+1,y,z-1)の水素結合に関する距離や角度が計算される(ACTAコマンドが指定してあればcifファイルにも出力される).ちなみに,SHELXL2013からは,原子名の指定なしに「HTAB」を入れることで,結晶中の水素結合に関するHTABおよびEQIVコマンドの完全なリストを自動的に発生させ,resファイルのHKLFコマンドの後に出力してくれるようになった.3.3原子座標の行との組み合わせinsファイルにおいて束縛をかけるためのコマンドの位置は,大抵の場合はすべての原子座標データよりも前でよいが,そうではない場合もある.その典型例はAFIXである.AFIXコマンドは,水素原子の計算を指定する場合には,(それが結合している)親原子の座標や温度因子の行の直後に入れる.図1に示すように,ベンゼン環が乱れていて,その炭素の一部しか見付かっていないときにも,次のようにAFIXコマンドを使って残りの炭素原子の座標を計算させることができる.AFIX 66C11A 2 0.140 0.603 0.754……C12A 2 0.174 0.635 0.960……C13A 2 0.152 0.811 1.107……C14A 2 0.0 0.0 0.0……C15A 2 0.0 0.0 0.0……C16A 2 0.084 0.750 0.696……AFIX 0ここで「AFIX 66」は,m=6(1辺の長さがdefault値d=1.39 Aの正六角形の剛体とみなし),n=6(このAFIXコマンドの次の原子,つまりこの例ではC11Aを剛体のか図1不完全なベンゼン環.(Incomplete benzene ring.)なめ原子として取り扱う)という指令である.プログラムは,初期座標が(0,0,0)である原子を無視して,1直線上にない3つ以上の原子があれば,理想的な形にあてはめ,剛体として拘束しながら精密化する.その結果得られるresファイルには,この六角形のすべての炭素原子の座標が出力される.AFIXコマンドで指定できるほかの剛体としては,m=5(正五角形つまりシクロペンタジエニル,Cp),m=10(ペンタメチルシクロペンタジエニル,Cp*),m=11(ナフタレン)がある.SAMEコマンドを使う場合も,化学的に等価な構造部分の原子座標をそれぞれ対応する順序で並べ,原子間距離のひな形とすべき構造部分の原子座標データの直前に,それに追随させる原子名を順番どおりに指定する.例えば,Znに配位しているエタノールが乱れていて(図2),占有率の小さいほうのZN1-O3-C4Bの角度が異常な値になるような場合,次のようにSAMEコマンドを指定することで,占有率の大きいほうの配置と1-2および1…3距離を似た値に抑制することができる.SAME ZN1 O3 C4B C5BZN1……………O3……………PART 1C4A……………C5A……………PART 2C4B……………C5B……………PART 0ここで大事なことは,SAMEコマンドの直後に続く原子座標データの連続して入力される部分を,プログラムは同数の対応する非水素原子とみなすことである.もし,原子の指定と入力の順番が一致していない(あるいは間に別の非水素原子の座標データが入っている)と,間違った束縛をかけてしまうことになる.上記のSAMEコマンドは,次のようなSADIコマンドの指定と同等である.SADI 0.04 ZN1 C4A ZN1 C4BSADI 0.02 O3 C4A O3 C4BSADI 0.04 O3 C5A O3 C5BSADI 0.02 C4A C5A C4B C5Bしたがって,ZN1…C4B距離についてだけSADIコマンドを使い,エタノール中の距離角度はDFIXやDANGを使って標準的な値に抑制することも可能である.図2Znに配位しているエタノールの乱れ.(Disorder ofethanol coordinated to Zn.)4.結晶溶媒の乱れに対する処置の現状結晶溶媒が乱れているときに,構造解析における処置の仕方(そしてSHELXLのコマンドの使われ方)の現状を知るために,データ検索を行ってみた.すなわち,ケ214日本結晶学会誌第57巻第4号(2015)