ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

クリスタリット中性子散乱長密度分布Neutron Scattering Length Density Distribution原子核による中性子の散乱を考える.物質中の任意の位置xにおける原子核iの存在確率密度ρi(x)と中性子散乱長b iの積の総和S ib iρi(x)の空間分布を中性子散乱長密度分布という.中性子散乱長密度分布は度々核密度分布(Nuclear Density Distribution)とも呼ばれる.しかし,正確にはS ib iρi(x)ではなくSiρi(x)の空間分布が核密度分布である.中性子回折データを用いた構造解析において,最大エントロピー法(MEM)あるいはフーリエ図などにより中性子散乱長密度分布が得られる.中性子散乱長密度分布には,イオンの拡散経路,原子の非調和熱振動,動的および静的な原子変位,格子間原子,分割サイトなどの情報が含まれる.X線構造解析から得られる電子密度分布にはその他に化学結合による電子雲の広がりが含まれるのに対し,中性子散乱長密度分布には電子雲の広がりがないので,イオンの拡散経路,原子の非調和熱振動,動的および静的な原子変位,格子間原子を調べるのに優れていることが多い.また,イオン伝導体の可動イオンとして重要なLi+,H+,O2-などの軽原子の中性子散乱長はX線原子散乱因子と比べて相対的に大きい.したがって,電子密度分布に比べて中性子散乱長密度分布のほうがLi+,H+,O2-などのイオン拡散経路を正確に調べることができる.(東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻八島正知)スピン励起と電荷励起Spin Excitation and Charge Excitation一般に,X線や粒子線(中性子線・電子線)の散乱強度は散乱体の二体相関関数のフーリエ変換で表され,非弾性散乱の場合は時間と空間に対しての相関関数である動的相関関数になる.また,揺動散逸定理により動的相関関数は散乱体のプローブ(電場・磁場)に対する感受率と結びついている.散乱体が電子の場合には,動的スピン相関と動的電荷相関が考えられ,それぞれ,スピン励起と電荷励起に対応する.電荷は電子密度(電子数)でもあるので,電荷相関は密度相関と呼ばれることもある.励起を観測することでスピンや電荷の運動を支配している相互作用を調べることができる.よく知られている例としては,スピン励起にはスピン波励起(マグノン)やストーナー励起,電荷励起にはプラズモンや電子正孔対励起などがある.共鳴非弾性X線散乱の場合は,散乱強度と動的相関関数との関係は必ずしも自明ではないが,ある条件や近似の範囲では両者を対応づけて考えてよいことがわかってきている.(日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究センター石井賢司)日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)水素貯蔵合金Hydrogen Absorbing Alloy水素は化学的に活性な元素であり,ほとんどの元素と反応し水素化物あるいは水素化合物を形成する.多くの金属は金属水素化物を形成するが,なかでも金属の格子間に水素原子が侵入した侵入型水素化物は,水素の組成を温度や水素ガス圧力によってコントロール可能である.一般に水素貯蔵合金(水素吸蔵合金)とは,ある水素圧力下において金属格子間に水素原子を侵入させることにより水素を貯蔵できる合金のことであり,その水素化物は侵入型水素化物に相当する.その主な特徴としては,水素ガスまたは液体よりも高い水素密度で水素を貯蔵することができる,可逆的に水素を吸蔵放出できるなどが挙げられる.1)1)大角泰章:“新板水素吸蔵合金―その物性と応用―”,アグネ技術センター(1993).(日本原子力研究開発機構町田晃彦)エピジェネティクスEpigenetics真核生物のDNAはヒストン8量体に巻き付きヌクレオソーム構造を形成する.ヌクレオソームのコア構造から飛び出たヒストンのN末端領域はアセチル化,メチル化,リン酸化などのさまざまな翻訳後修飾を受ける.また,DNAは5'-CpG-3'配列中のシトシン塩基の5位がメチル化される.これらの翻訳後修飾のパターンにより高次のクロマチン構造が規定され,遺伝子発現が制御される.このようなDNAの塩基配列に依存しない遺伝子発現の制御機構をエピジェネティクスと言う.エピジェネティックな情報は書き込むタンパク質(modifier),読み取るタンパク質(reader),消去するタンパク質(eraser),継承するタンパク質(maintainer)により,発生の初期過程ではダイナミックに変動することが考えられている.(横浜市立大学大学院生命医科学研究科有田恭平)DNA維持メチル化Maintenance of DNA Methylation発生の過程で体細胞は細胞種固有の機能と形態を獲得する.これは細胞種によって発現する遺伝子の種類が異なることに起因する.この遺伝子発現パターンを定義する因子がDNAメチル化などのエピジェネティクスである.体細胞が獲得したDNAメチル化パターンは細胞分裂を経ても次世代の細胞に正確に受け継がれていくことにより,分化状態の維持と癌化が防がれている.このDNA維持メチル化に関与する因子が維持型DNAメチル化酵素Dnmt1とその補助因子であるUHRF1である.DNA維持メチル化の過程では,まずDNA複製の際に生73