ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

クリスタリットFunction),結合原子価法,分子動力学計算,第一原理計算などにより調べることができる.1)M. Yashima: J. Ceram. Soc. Jpn. 117, 1055(2009).2)八島正知:日本結晶学会誌51,153(2009).(東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻八島正知)結合原子価法Bond Valence Method電子ドープElectron Dopingドープもしくはドーピングは半導体工学で重要な言葉で,電子やホールなどのキャリア濃度を制御するために行う不純物の添加のことを指す.高温超伝導体の場合,ノンドープ体である母物質は,主に反強磁性絶縁体や反強磁性金属といった磁気的秩序を伴う基底状態にあり,キャリアは動かないか動きづらい状態にある.構成元素のいずれかを異なる価数のものに化学置換すると,キャリアが動き出し超伝導状態となる.鉄系超伝導体の母物質LaFeAsOならば,例えばO 2-のサイトをH -で置換することで,鉄原子の価数は減少し電子がドープされる.これが電子ドープである.化学的に安定であれば,別の元素サイトを置換することも可能である.反対にホールが注入される場合は,ホールドープと呼ぶ.(東京工業大学元素戦略研究センター山浦淳一)イオン拡散経路Ion-Diffusion Pathway材料においてイオンが拡散する経路をイオン拡散経路という.無機多結晶体などモノリシック材料(monolithicmaterials)のnm~mmスケールの微構造におけるイオン拡散経路には,粒内(バルク),表面,粒界,転位(線欠陥)などがあり,複合材料(composites)ではイオン拡散経路はさらに複雑になる.結晶粒内のイオン拡散(体拡散,格子拡散,バルク拡散)について,結晶格子内をイオンが1つの安定位置から近接する別の安定位置または準安定位置に移動する経路もイオン拡散経路という.これは原子スケール(pm~nm)のイオン拡散経路である.同じ結晶構造をもち化学組成が異なる物質におけるイオン拡散経路は同じであるか,あるいは類似している.1)例えば蛍石型イオン伝導体の可動イオンの拡散経路は<100>方向に沿って曲線状である.1),2)ペロブスカイト型イオン伝導体の可動イオンの拡散経路は<110>方向に沿って曲線状である.1),2)結晶格子内のイオン拡散経路は,中性子散乱長密度分布,電子密度分布,差フーリエ図,最大エントロピー法,PDF(Probability Density結合原子価(Bond Valence)とは,凝縮体中の各結合に割り当てられる原子価である.結合原子価はPaulingの第二法則における結合強度に対応する.凝縮体中の任意のイオンAiに近接する対イオンXjとの結合原子価vijは結合距離d ijの関数,v ij=exp[(R ij-d ij)/b]で表される.ここで結合原子価パラメーター(bond valence parameter:A iとXjのイオン種に依存する)R ijとb(=0.37 A)は経験パラメーターであり,文献によって値が異なる.凝縮体中の任意のイオンAiに近接するすべての対イオンXjとの結合原子価の総和(BVS:BondValenceSum)vi=Sjvij=S j exp[(R ij-d ij)/b]はイオンA iの酸化数の目安になる.結晶の任意の席(site)にいくつかのイオンAi(i=1,2,…,N)が占有率g iで存在し,この席に近接するすべての対イオンの席に対イオンXjが占有率G jで存在する場合,結合原子価の総和vは次式で計算されるv=SigiSjvij=S ig iS jG j exp[(R ij-d ij)/b].BVSはイオンの平均酸化数を推定するだけではなく,結晶構造やアモルファスの構造の妥当性および安定性を確認し,考察することにも有用である.凝縮体中のイオンの安定位置だけではなく任意の位置xに,ある1つのテストイオン(例えばO 2-,Li+など)を置き,それが近接する対イオンとの結合についての結合原子価の総和BVS(x)がテストイオンの形式酸化数の絶対値zに近い場所はテストイオンが安定である.結晶の単位胞内で「差結合原子価の総和」DBVS≡BVS(x)-zの空間分布あるいは等値面(例えばDBVS=±0.1 vu)を調べることでテストイオンの拡散経路を推定できる.また,BVSに基づいてテストイオンのエネルギー(BVE:Bond Valence-based Energy)を近似的に見積もることもできる.結晶の単位胞内でBVEの空間分布あるいは等値面(最安定位置のBVEを0 eVとして,例えばBVE=0.5 eV)を調べることでテストイオンの拡散経路を推定できる.DBVSとBVEの計算は分子動力学計算や第一原理計算に比べて容易で短時間に実行できる.結合原子価はほかにも熱膨張などの材料物性を考察できるなど幅広く応用されている.このように結合原子価に基づいて構造や物性を考察するさまざまな手法を,結合原子価法という.(東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻八島正知)72日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)