ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

電子顕微鏡技術の進展と相関解析レキシン発現細胞とニューロリギン発現細胞の間に接着構造が形成されていることを確かめ,そのまま,加圧凍結装置によって,固定した.この装置は,約2,000気圧の圧力を試料にかけると同時に,液体窒素のジェットを試料に吹きかけ,試料表面からできるだけ深く,晶質の氷の形成を抑えて凍結するための装置である.この装置によって,蛍光顕微鏡観察時から大きく時間を隔てずとも試料を固定できるようになった.相関をとるためにはこのラグタイムはしばしば問題になる.加圧凍結の後,凍結置換という操作を行い,試料を樹脂に包埋し,薄切を行った.これを重金属塩で染色し,電子顕微鏡観察を行うのである.実際そこには,ニューレキシンやニューロリギンを発現させていない細胞間では見られない強いコントラストの構造物が認められた.このような分子レベルでのCLEMの例はそう多くなく,むしろ,細胞の微形態に着目したCLEMが多い.そういった目的では,分解能の低い,走査型電子顕微鏡(SEM)と蛍光顕微鏡との相関解析が多いように思う.技術的に最新の手法としては,凍結試料を使用し,蛍光ラベルした場所を目印としてクライオ電子線トモグラフィーで3D解析する,あるいは,FIB(Focused-ion beam)で削りながらSEMで撮影していく方法が報告されている.24)また,蛍光顕微鏡を電子顕微鏡に埋め込んだ相関顕微鏡観察用の電子顕微鏡も発売されるようになった.今後,どのような目的の実験に使用されるかが,鍵となる.6.おわりに電子顕微鏡は,マルチプローブと言う観点から捉えて使用してこそ,そのデータが生きてくるように思う.さらに,プローブとしてのX線結晶構造解析や蛍光顕微鏡との連携だけでなく,計算機の使用も大きなウェイトを占めつつあると言ってよい.機能性複合体とでも言うべき高次構造の解明や,コンフォメーショナル変化を伴う分子の解析など,ようやく信頼できるレベルで解析が可能になってきた.さらに,X線結晶構造解析に使用されているタンパク質の品質であれば,そのまま電子顕微鏡での構造解析に使用できること,そしてクライオ電子顕微鏡の操作性の向上や解析ソフトウェアの充実から,エキスパート以外にもX線結晶構造解析-電子顕微鏡のハイブリッドアプローチの門戸が開けつつある.今後ますます巨大で複雑な分子のIntegrative model構築へ挑戦する機会が増えるだろう.謝辞本稿を仕上げるにあたり,理化学研究所・米倉功治博士に内容を精査していただきました.また,最新のフィッティング手法に関しては,阪大蛋白研・川端猛博士に意見をいただきました.英文校正は阪大・蛋白研Zuben Brown氏の厚意によるものです.文献1)X. Li: Nature Methods 10, 584(2013).2)B. Sander: J. Struct. Biol. 151, 92(2005).3)J. Frank:"Three-dimensioinal Electron Microscopy ofMacromolecular Assemblies: Visualization of Biological Moleculesin Their Native Stale", Oxford University Press(2006).4)J. Frank: Ultramicroscopy 1, 159(1975).5)R. Henderson: Q. Rev. Biophys. 28, 171(1995).6)P. B. Rosenthal: J. Mol. Biol. 333, 721(2003).7)B. Bottcher: Nature 386, 88(1997).8)J. F. Conway: Nature 386, 91(1997).9)X. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. 105, 1867(2008)10)A. F. Brilot: J. Struct. Biol. 177, 630(2012).11)M. G. Campbell: Structure 20, 1823(2012).12)M. Liao: Nature 504, 107(2014).13)E. Cao: Nature 504, 113(2014).14)P. Lu: Nature 512, 166(2014).15)P. Chacon: J. Mol. Biol. 317, 375(2002).16)E. F. Pettersen: J. Comput. Chem. 25, 1605(2004).17)M. Rusu: Bioinfomatics 24, 2460(2008).18)F. Tama: J. Mol. Biol. 337, 985(2004).19)M. Topf: Structure 16, 295(2008).20)L. G. Trabuco: Structure 16, 673(2008).21)G. Zhao: Nature 497, 643(2013).22)Y. Tsukasaki: Proc. Natl. Acad. Sci. 111, 16011(2014).23)H. Tanaka: Cell Rep. 2, 101(2012).24)Y. Fukuda: Ultramicroscopy 143, 15(2014).プロフィール岩崎憲治Kenji IWASAKI大阪大学蛋白質研究所蛋白質解析先端研究センターResearch center for State-of-the-Art FunctionalProtein Analysis, Institute for Protein Research,Osaka University〒565-0871大阪府吹田市山田丘3-23-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japane-mail: ikenji@protein.osaka-u.ac.jp最終学歴:大阪大学大学院(博士後期)専門分野:構造生物学,電子顕微鏡現在の研究テーマ:ミドリムシ青色光センサーのメカニズム解明趣味:ウィスキー(流行る前から)日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)71