ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

岩崎憲治ている.4.3二次元の電顕像から原子構造のモデリングここでわれわれの研究の一端を紹介する.巨大な分子のなかには,電顕でも,その全体の3D構造を求めることができないものがある.われわれが挑戦したFATおよびDachsousという巨大カドヘリン分子などがその良い例であろう(図4).22)FATは34個,Dachsousは27個のカドヘリンリピートをもち,電子顕微鏡で観察すると,にょろにょろと一見規則性のない形を示す.これでは,同一構造が多数存在すると仮定する単粒子解析法は使えないし,結晶化も相当困難であろう.何より多量に発現精製することが難しい.しかし,少量あれば,最低限の電子顕微鏡観察は行える.このスナップ写真と一致する三次元の原子構造を構築する手法の開発を日本原子力研究開発機構の松本淳博士に依頼した.本方法では,既知図42Dハイブリッド解析で得られた巨大カドヘリンFATの構造(文献22)のFig. 3から抜粋).(ThemodelofFATobtainedbyusing2Dhybridmethod.Reproduced from reference 22).)(a)の上段が,FATの電子顕微鏡写真.得られたモデル(b)は,ある向きで電子顕微鏡写真にうまく当てはまる((a)の下段).の結晶構造をアミノ酸のCα原子などで粗視化し,弾性ネットワークモデルを構築する.次にNMAを使用して多数の変形構造ライブラリを作る.この変形構造それぞれについて,あらゆる向きの投影像-つまり,人工的な電子顕微鏡写真-を作り,二値化した電子顕微鏡写真との相関を計算することで,最適構造を選び出すわけである.FAT-Dachsousの系では,配列情報を取り入れたもう少し複雑な手法がとられた.5.光-電子相関顕微鏡法(Correlative Light andElectron Microscopy:CLEM)超解像を始めとする光学顕微鏡の進展は凄まじいものがあるが,点としてではなく,分子分解能で形状を可視化する目的では,電子顕微鏡が適している.しかし,電子顕微鏡にはGFPのような簡易で定量性もある遺伝子導入型のラベルがない.そこで,そのような蛍光ラベルを蛍光顕微鏡で観察しておき,まったく同一の試料の同一箇所を電子顕微鏡で観察する光-電子相関顕微鏡法が行われている.どのスケール,つまり,分解能で相関を行うかは研究者によってまちまちであり,手法もさまざまであるので,相関顕微鏡法という用語は,大変広い意味で使われている.ここでは,われわれの例を紹介しよう(図5).23)われわれは,神経シナプスの接着を司るニューレキシンとニューロリギンというタンパク質の複合体の結晶構造を得た.この結晶構造から,ニューレキシンとニューロリギンの複合体がシナプス間で集積構造を形成している可能性が出てきた.そこで,ある細胞には,EGFP融合型のニューロリギンを発現させ,ある細胞には,DsRedを融合させたニューレキシンを発現させた.これらの細胞を混合すると,細胞間に接着が起きた.蛍光顕微鏡で観察すると,どちらの細胞に何が発現しているかは,一目瞭然である.これによって,ニュー図5光-電子相関顕微鏡法の例.(An example of correlative light and electron microscopy(CLEM).)ニューレキシンとニューロリギンをそれぞれ発現させた細胞(赤と緑)を蛍光顕微鏡で同定し,同一箇所の超薄切片を作製し,電子顕微鏡で観察する.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.70日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)