ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

電子顕微鏡技術の進展と相関解析図3 K2 Summitを使用して得られたTRPV1の構造.12),13)(The 3.275 A structure of a mammalian TRP channel,TRPV1 determined by cryo-electron microscopyusing K2 Summit.)EMDataBankに登録されているemd_5778.mapとPDBに登録されている3j5pを同時にChimera 16)で表示させたもの.だろう.4.X線結晶構造の電顕3Dマップへのフィッティングこのように分解能が飛躍的に改善したわけであるが,それに伴いX線結晶構造の電顕3Dマップへの当てはめ技術,あるいは最近では原子構造のモデリング技術の進展が同時進行でみられる.X線結晶構造解析と電子顕微鏡との相関解析技術である.以下にそれを分解能に応じた手法の発展として述べる.ここでは,分解能として1 nm以上の大きな値をもつ場合を低分解能,1 nmよりも小さい値を高分解能とする.4.1低分解能構造へのフィッティング以前は,対称性をもち高分解能解析された構造(それでも当時は近原子分解能解析ではなかったが)への結晶構造のフィッティングか,ナノメートル分解能の電顕3Dマップへ剛体フィッティングを行っていた.前者は信頼性の高いフィッティングが行えるが,後者では,フィッティングの正当性を示す評価基準が現在でもない.4.1.1低分解能構造への剛体フィッティングこの原因の1つは,分解能が低い場合,マップ内部の密度分布を信用できないからである.分解能が高いと,隣合う2つの密度ピークが区別できるが,分解能が低くなるにつれて,この2つのピークの区別ができなくなり,その2つのピークの中間に1つだけ密度ピークが出現するようになる.普通ならば,結晶構造から作製した低分解能モデルを電顕3Dマップの密度分布との相関を基にフィッティングするだろう.実際そのようなことは多日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)くなされてきた.しかし,低分解能のマップでは“ない”はずのところの密度ピークに対してフィッティングを行ってしまう結果になる.そこで,ラプラシアンフィルターを用いて,3Dマップの形状を強調させ,これに対してフィッティングするプログラムも考案された.15)現在は,UCSFが開発しているChimera(https://www.cgl.ucsf.edu/chimera/)という高機能の表示ソフト上で行う剛体フィッティングが最も多いようである.視覚的に確認しながら行え,操作も容易である.16)4.1.2低分解能構造へのフレキシブルフィッティング低分解能電顕3Dマップへ,結晶構造のコンフォメーションを変えてフィッティングを行う試みもされている.低分解能であっても判別できる大きなコンフォメーションの差が結晶構造と電顕3Dマップの間にあるような場合のフィッティングである.アミノ酸残基はおろか,二次構造も可視化されていない電顕3Dマップに対していかに構造を変化させるかが,ポイントとなる.早くからより一般的で簡便な使用を考慮してなされた取り組みは,ソフトウェアSitus(http://situs.biomachina.org/)であろう.結晶構造も,電顕3Dマップもベクトル量子化を通して特徴ベクトルとして粗視化する.その後,補間法という方法で,変形を行う.17)一方で基準振動解析(Normal Mode Analysis:NMA)を使う方法がある.18)比較的大きな分子の全体的な構造変化は,低周波の基準振動方向に変形するとうまく表せられることが知られている.応用例はそれ程多くないが,4.3に述べるわれわれの例でもこれはうまく働いている.4.2高分解能構造へのフィッティングところが,二次構造が可視化できる程分解能が改善されるとフィッティングの手法の幅が広がる.結晶構造と電顕3Dマップにおいてコンフォメーションが異なる場合にいかにフィッティングを行うかが,模索されてきた.4.2.1フレキシブルフィッティングAndrej Saliらの開発したFlex-EMというフィッティングソフトが,非常によく使われている.19)論文では14 A分解能の電顕3Dマップに対しても機能していることが示されており,中分解能でも使用できる可能性はある.アルゴリズムは少々複雑で,3つの段階から構成されている.剛体のフィッティングから始まり,Simulatedannealing rigid-body molecular dynamicsというプロトコルで精密化を図っている.現在高分解能データに対して最も有名なのが分子動力学を使ってフレキシブルフィッティングを行うKlaus Schultenらが開発したMDFF(Molecular DynamicsFlexible Fitting)である.20)これが使われた一番有名な例は,成熟したHIVのキャプシド構造の解析であろう.21)NAMDという最もよく知られた分子動力学ソフトウェア(http://www.ks.uiuc.edu/Research/namd/)に組み込まれ69