ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

電子顕微鏡技術の進展と相関解析徐々に論文が出されるようになった.そして10年を経て,CCDカメラやフィルムに代わる優れた検出器として認知されるようになった.クライオ電子顕微鏡によるタンパク質の単粒子再構成への応用は,2011年の報告が初めてであり,2013年にランドマーク的な仕事が行われた.これは,単に電子を直接検出するだけという機能からさらに一歩工夫した結果生まれたものだった.その詳細を次項で述べる.3.高分解能構造解析への展開3.1単粒子解析法電子顕微鏡を使用した生体分子の構造解析法の主流は単粒子解析法である.英語でも,Single-Particle Analysis,Single-Particle Reconstruction,Single-Particle Imaging,Single-Particle Cryo-Electron Microscopy等々と呼ばれるのでよく誤解されるが,これは一分子解析ではない.多数の粒子のデータをマージするので,本当なら多粒子解析法である.この方法の詳細については,本論を外れるので他書に譲るが,3)特徴を述べるとすれば以下である:一種類のタンパク質が多数溶媒に溶けているとし,これを凍結して撮影すれば,いろいろな方向を向いたタンパク質粒子の像が一度に撮影できる.もしも構造がすべての粒子で同一ならば,一分子をさまざまな方向から撮影したのと同じデータが得られる理屈である.これを利用して,二次元,三次元の構造を再構成するのが単粒子解析法である.電顕像から元の三次元構造を得る方法としては,電子線トモグラフィーが最初に行われたが,同一分子に電子線を照射し続けるために電子線ダメージが問題となった.単粒子解析法はそれを克服し,結晶性のない試料に適用できる技術として発展してきた.その誕生がJoachim Frankの1975年の論文だとすれば,40年近くが経つ.4)この方法でタンパク質のアミノ酸1つ1つが可視化できることを信じてさまざまな取り組みがなされてきた.X線,中性子線,電子線の3つを比べてHenderson5が述べた到達可能な理論的分解能)もここ20年の開発の拠り所になったと言ってよい.3.2分解能の定義まず,高分解能の話をする前に単粒子解析法で用いる分解能について断っておかなければならない.単粒子解析法では,多数の粒子を扱い統計学的処理をする.そこで,データセットを2つに分けて独立に解析し,最終的に得られる2つの三次元再構成像(以下3Dマップ)のフーリエ変換の相関を空間周波数ごとにある幅(Shellと呼ぶ)で区切って計算する.この相関値を空間周波数に対してプロットしたものが,Fourier Shell Correlation(FSC)である(図1).FSC値は,一般的に低周波から高周波まで,逆シグモイド型に減少していく.このとき,FSC=0.5となる周波数をもって,分解能と称している.日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)図1 Fourier Shell Correlation(FSC)の典型的な形.(FourierShell Correlation: FSC.)FSC=0.143を判定基準にした場合,FSC=0.5の場合より高い分解能を示す.本来は,分解能ではなく,提案者自身もそのようなことは述べていない.また,FSC=0.143のときの周波数成分を分解能とすることも同じくらい多い.これは,2つのデータセットに分けることで低くなる見積もりを補うために案出された基準である.6)こちらのほうが同じ3Dマップでも当然FSC=0.5のときより高分解能の値になる.どちらにしても,実際のマップの品質を忠実に反映しているわけではないが,決定的な評価基準がない現在は,ほかに選択肢がないため定着したと言ってよい.3.3近原子分解能解析3.3.1正二十面体ウイルスの近原子分解能解析近原子分解能解析(~3 A)への最初のステップは,1997年である.B型肝炎ウイルスを使って初めてaヘリックスを主としたタンパク質の折りたたみの可視化成功例が2例同時報告された.7),8)筆者がポスドクをしたのもそのラボである.2008年にいよいよ近原子分解能解析が報告される.9)このときはフィルムが使われた.おそらくその成功は,精巧な解析ソフトウェアの使用によるところが大きいと思われる.これが契機となったと言ってよい.2008年から2010年の間に近原子分解能解析がウイルスを使って9つ報告された.そのうちCCDカメラが使われたのは一件だけで,あとはすべてフィルムである.正二十面体ウイルスは,粒子自体が十分なコントラストを得られる程大きく,対称性の高さから,データの冗長性,パラメータ制限,そして何と言っても本質的に分解能を劣化させてしまう分子のフレキシビリティが少ない.よって次の課題は,より一般的な小さく対称性の低い分子の近原子分解能解析であった.3.3.2第2世代電子直接検出器の登場第2世代電子直接検出器と呼んでいるのは,メーカー67