ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

ページ
74/94

このページは 日本結晶学会誌Vol57No1 の電子ブックに掲載されている74ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No1

特集マルチプローブ研究が拓く構造研究の新時代4.生命科学分野におけるマルチプローブ研究日本結晶学会誌57,66-71(2015)電子顕微鏡技術*の進展と相関解析大阪大学蛋白質研究所蛋白質解析先端研究センター岩崎憲治Kenji IWASAKI: Progress in Transmission Electron Microscopy and its Application toCorrelative AnalysisRecent advances that improve direct electron detectors have revolutionized structuraldetermination of biological molecules by cryo-electron microscopy. It has brought about theadvent of near atomic resolution in single-particle reconstruction even with membrane proteinsof 200~400 kDa. In fact, such high-resolution structures have allowed de novo building ofatomic models. This rapid progress will change the quality and quantity of the conventional hybridapproach combining cryo-electron microscopy and X-ray crystallography or light microscopy, andcomputational methods such as molecular dynamics will also take on added significance to createintegrated models of huge and complex macromolecules.1.はじめにプローブが検出できる空間分解能という観点から眺めると,生物電子顕微鏡は,光学顕微鏡とX線結晶構造解析の間に相当する.そのため,一方では光学顕微鏡との相関解析-Correlative Light and Electron Microscopy(CLEM)-が行われ,もう一方では,X線結晶構造で得られた原子構造をいかにして電子顕微鏡で得られた三次元構造(以下電顕3Dマップ)に当てはめるか-ハイブリッドアプローチという-が模索されてきた.これらの手法間にある分解能のギャップを埋め,構造情報をシームレスに繋ぐことで,高次構造での-究極には細胞環境下での-分子の作用機構を原子レベルで理解することができるはずである.そのような橋のような役割を果たしてきた電子顕微鏡であるが,しかし,この1,2年で生物電子顕微鏡に革命的な技術進歩が起こり,X線結晶構造解析法の領域に侵(進)出して来るようになった.何が起きたのだろうか.2.検出器の革命生物分野では,電子顕微鏡技術というよりは,検出器に革命が起きた.論文報告としては2013年の出来事である.1)電子顕微鏡では発明当時からフィルムが使われ,高分解能解析には,そのデジタル化に超高性能のスキャナーが使われてきた.後にイメージングプレートを経て,CCD(Charge-coupled device)カメラへと時代が移る.しかし,それでもフィルムは高周波数領域において優れた量子検出効率(Detective Quantum Efficiency:DQE)をも*本稿では,電子顕微鏡または電顕は,透過型電子顕微鏡を指す.ち,CCDカメラを凌駕していた.2)DQEとは要するに記録画像に検出器自身がどれだけノイズを加えてしまうかを測定したものである.DQE=(S out/N out)2 /(S in/N in)2(1)S/Nはシグナルとノイズの比で,inは入力outは出力の場合完璧な検出器があるとすれば,DQE=1となる.実際はすべてDQE<1となる.電子顕微鏡の場合,シンチレーターによって,電子をいったんフォトンに変換する.これが光ファイバーを通ってCCD素子へと伝えられるfiber-coupled CCDが高分解能を求める生物試料には使われた.線形性とダイナミックレンジの広さを長所とするCCDカメラだが,この多段階の信号伝達のため,通常のデジカメなど光撮影で用いる際に起こりうるブルーミングやスミアといった現象に加えて,さらにシグナルをボカす要素が加わる.よって,フィルムと同等の情報量を得るには,フィルム使用時の倍率よりもさらに大きな倍率がCCDカメラには要求された.そうすると,電子線の単位面積当たりの照射量が増加し,試料が損傷を受ける.そこで,CCDの感度の良さを利用して,電子線照射量を減らす.だが,倍率が大きいのだからワンショットの撮影領域は小さくなる.そこで,自動的にタイル状に撮影していく,スポットスキャンあるいはモンタージュ撮影法と呼ばれる制御システムが誕生した.すぐに画像を確認できるCCDカメラの利便性はフィルムをはるかに凌ぐものがあったためこのような工夫がなされてきたのだろう.一方で,フィルムに負けないDQEの優れた検出器の開発として,CMOS(Complementary metal oxide semiconductor)を使った電子直接検出器の開発が行われ,2003年から66日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)