ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

反転型セルラーゼの巨大結晶作製と中性子/X線共構造解析図5PcCel45Aの活性中心における常温構造と凍結構造の違い.(Difference of active site structures ofPcCel45A at room temperature and cryo temperature.)図7常温構造と凍結構造での酵素表面の水分子の違い.(Difference of water molecule positions on enzymesurface at room temperature and cryo temperature.)編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図6トリス分子による活性阻害効果.(Inhibition effect図8中性子構造とX線構造での水分子の違い.(Differenceof Tris molecule for the activity of PcCel45A.)of water molecule between neutron and X-raystructures.)性を阻害するのかどうか調べたところ,Tris-HCl緩衝液の濃度を1.0 Mまで高めても活性には影響がないことが確認された(図6).PcCel45Aの結晶化条件においてTris-HClバッファーの濃度は50 mMであるので,活性中心にTris分子が配位していない常温における構造が妥当であると考えられる.すなわちTris分子の活性中心への配位は,結晶を凍結させたことによって生じた可能性を示している.さらに,酵素表面に結合している水分子の数や位置について,常温および低温条件における構造の分解能を1.0 Aに揃えて比較したところ,常温では136個の水分子が分子表面に存在しているのに対して低温条件では227個であり,そのうちどちらの構造でも共通の分子は100個(緑色)であった(図7).この結果は,半数以上の水分子は凍結状態でのみ「結合水」として振る舞う水分子(青色)であることを示している.また,赤色で示された21個の水分子は常温でのみ観測され,黄色で示された15個の水分子は,常温と低温で位置が変わっているものを示した.これらの結果は,結晶構造解析において結晶を凍結すると,常温では自由水として振る舞う水分子をタンパク質表面に固定したり,本来活性を有する温日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)度では起こり得ない水分子の局在を招いたりすることを示していた.次に中性子回折データとX線回折データを合わせて精密化したモデルを解析したところ,X線のみのデータでは405個の水素原子が観測されるのに対して,中性子データとX線データを共解析した場合は,1199個の水素原子が観測できた.これは,酵素分子中の92%,水分子の42%の水素原子が観測できたことを意味することから,酵素および水分子の水素原子の位置を含めた構造解析において,中性子構造解析が非常に有用であることがわかる.さらに重要な違いとして,交換されない水素原子は,X線と中性子でほぼ同じ位置にピークが観測されるが,交換可能な水素原子については2つの構造に違いが出るところがあった.ある水分子に関して水素原子オミットマップを示すと,中性子構造では非常によく2つの水素原子のピークが観測されており,タンパク主鎖のカルボニルとの水素結合が確認できる(図8).一方X線構造では,ピークが中性子構造とはまったく違う方向に観測されている.このようなことから,特に交換可能な63