ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

中村彰彦,石田卓也,鮫島正浩,五十嵐圭日子図1立体反転型酵素の反応模式図.(Scheme of reaction mechanism of inverting-glycoside hydrolase.)とされている(図1).セルロース(グルコースがβ-1,4結合で直鎖状に繋がった多糖)だけでなく,グルコースがβ-1,3またはβ-1,4結合したβ-グルカン,グルコースとマンノースのヘテロ多糖であるグルコマンナンなども基質となることが明らかになり,その加水分解様式はエンド型(多糖の分子鎖をランダムに加水分解する様式)であることが明らかとなった.このファミリーは,細菌やカビ・キノコなどのセルロース分解性の微生物だけでなく,線虫や二枚貝,昆虫に至るまで幅広い生物種において遺伝子の存在が確認されている.ほかのGHファミリーと比較してアミノ酸の配列が多様であり,本ファミリー内でさらにサブファミリーA~Cに分けられている大きなファミリーであるだけでなく,類縁タンパク質として,細菌や植物から植物細胞壁を膨潤させるタンパク質として単離されたエクスパンシンや,エクスパンシンと似たタンパク質であるカビ由来のスウォレニンが知られている.本GHファミリーに分類されるタンパク質の中で最も古くから研究されている酵素は,子?菌Humicolainsolens由来のHiCel45A(サブファミリーA)であり,本酵素の場合は121番目のアスパラギン酸(Asp121)と10番目のアスパラギン酸(Asp10)がそれぞれ一般酸触媒残基と一般塩基触媒残基とされている.2)そのほかにも114番目のアスパラギン酸(Asp114)が,活性中心付近に存在して上述の2つの酸性アミノ酸による活性を補助していると考えられている.4.担子菌Phaenerochaete chrysosporium由来GHファミリー45セルラーゼ近年われわれのグループは,きのこの一種である担子菌Phaenerochaete chrysosporiumが,セルロース分解時にGHファミリー45に属するセルラーゼ(PcCel45A)を生産していることを発見した.3)PcCel45Aは,HiCel45Aと比較してアミノ酸配列の相同性が低く,エクスパンシンやスウォレニンに近いサブファミリーCに分類されることが明らかとなっている.本酵素のアミノ酸配列をさらに詳細に解析してみると,本酵素では明白なセルロー図2 HiCel45AとPcCel45Aの活性中心の比較.(Comparisonof active sites of HiCel45A and PcCel45A.)ス分解活性が確認されるにもかかわらず,HiCel45Aの一般塩基触媒残基(Asp121)に相当する酸性アミノ酸が欠損していた.一般的な加水分解反応に必要と考えられている酸性アミノ酸をもたないPcCel45Aがどのように反応しているのかを調べるために,われわれは本酵素の結晶化を試みたが,一般的なスクリーニングキットでは解析に耐えうる結晶を得ることができなかった.しかしながら,幸運なことに,疎水性クロマトグラフィー後のフラクションを冷蔵庫で保管していた際に,保存中の溶液内で偶然にも良質の結晶を得ることができ,PtとAu原子をラベルとして重原子同形置換法で構造を決定することができた.得られたPcCel45Aの構造をHiCel45Aのそれと比較すると,一般酸性残基に相当するアスパラギン酸残基(Asp114)が保存されていることは確認できたが,アミノ酸配列の相同性から推測されたとおり一般塩基触媒残基に相当するアスパラギン酸残基が欠損していることが判明した.興味深いことに,PcCel45AではHiCel45Aにおいて活性補助残基とされているAsp114の位置に,アスパラギン残基(Asn92)が配置されていることがわかった(図2).これらの残基のほかに活性中心周辺に触媒残基60日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)