ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

相関構造生物学によるUHRF1のヒストン認識機構の解明図7 H3K9me3ペプチドとTTD-PHDの1 H- 15 N HMQCスペクトル.(1 H- 15 N HMQC spectra of H3K9me3 peptide andTTD-PHD.)左図:野生型TTD-PHD(緑),変異体TTD-PHD(オレンジ),S298ph TTD-PHD(赤)と結合したH3K9me3ペプチドの1 H- 15 N HMQCスペクトルの重ね合わせ.右図:野生型TTD-PHD(緑)とS298ph TTD-PHD(赤)の1 H- 15 N HMQCスペクトル.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.が報告されている.12)この生体内で起こるSer298のリン酸化がTTD-PHDによるH3K9me3ペプチドの認識に影響を及ぼすかどうかを調べた.リン酸化体TTD-PHDは,TTD-PHDとそのリン酸化酵素であるPKAを大腸菌内で共発現させることで調製した.TTD-PHDのリン酸化をPhos-tag SDS-PAGEで確認し,質量分析による解析でSer298のリン酸化を確認した.この大腸菌内リン酸化のシステムではほぼ100%の割合で目的タンパク質をリン酸化できる非常に高効率な方法である.Ser298をリン酸化させたTTD-PHD(以下S298ph TTD-PHD)の高次構造が変化しているかをSAXSで調べた.すると,前述のリンカーが解離した変異体TTD-PHDとは異なりその高次構造は野生型TTD-PHDよりも少し粒子径が大きくなっている程度の違いしかないことがわかった(図5).また,15 Nで標識した野生型TTD-PHDとS298ph TTD-PHDの1 H- 15 N HMQCスペクトルの比較でも数残基の変化しか見られなかったことから,Ser298のリン酸化がTTD-PHDの高次構造に及ぼす変化は局所的であることが考えられた(図7).しかし,このS298ph TTD-PHDのH3K9me3ペプチドへの結合をITCで評価すると,野生型TTD-PHDと比較してK dが約30倍減少すること,H3K9me3ペプチドとの1:1の結合がなくなることが明らかとなった(図6).また,S298ph TTD-PHDと結合しているH3K9me3ペプチドの構造をNMRで評価すると,前述した変異体TTD-PHDで見られたH3ペプチドのスペクトルと非常によく一致することがわかり,αヘリックス構造の誘起が起こっていないことが明らかとなった(図7).このことから,Ser298のリン酸化はTTD-PHDの高次構造に大きな変化は与えないが,リン酸化サイトがTTDとPHDの間のjunction領域に存在することから局所的な摂動を高次構造に与え,H3K9me3の特異的な結合日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)の消失をもたらすことが考えられる.UHRF1のSer298のリン酸化の生物学的な意義は不明であるが,PKAがG1/S transitionに関与することから,13)細胞周期に依存したUHRF1の機能制御がこのリン酸化修飾によって担われている可能性が考えられる.3.まとめ本研究ではX線結晶構造解析によりTTD-PHDの全体構造を明らかにし,TTD-PHDが高次構造を形成することを明らかにした.さらに,ヒストンH3テイル上の複雑なヒストン修飾の組み合わせの認識機構を解明した.また,NMRを用いてヒストンH3のαヘリックス構造の誘起機構がTTD-PHDによるヒストンH3の修飾の組み合わせ認識に必要であることを明らかにした.SAXS測定からはUHRF1 TTD-PHDによるH3K9me3ペプチドの認識にリンカー領域が重要であることを示した.本研究ではX線結晶構造解析,NMR,SAXSのそれぞれの手法の長所と短所を補うことにより,UHRF1のTTD-PHDによるH3K9me3ペプチドの認識機構を詳細に解明するに至った.このように複合的に構造生物学的な手法を用いて解析することにより新たに見えてくる情報もあった.例えば,結晶構造から得られるP(r)関数のプロファイルと,SAXS測定した溶液中のTTD-PHDのP(r)関数のプロファイルが異なることがわかった(図5).このことはTTD-PHDの構造は溶液中において揺らぎが大きいことを示唆している.実際に,結晶構造解析では非対称単位中に4分子のTTD-PHD:H3K9me3ペプチド複合体が含まれていたが,そのうち2分子はPHD fingerに相当する電子密度が観測されなかった.また観測された2分子中のPHD fingerの領域の温度因子はTTD領域の温度因子と57