ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

有田恭平2.4リンカーによるTTD-PHDの高次構造の形成機構前述のようにドメイン間のリンカーがTTDと相互作用することによってTTD-PHDは高次構造を形成していた.TTDとリンカーの相互作用はTTDのAsp142とリンカーのArg295/Arg296の間の静電的な相互作用によって担われていた.このリンカーとTTDの相互作用がUHRF1のH3K9me3ペプチドの認識に重要かどうかを明らかにするために,リンカーのArg295とArg296をアラニンに置換した変異体を作製した.この変異によるTTD-PHDの高次構造の消失をSAXSで確かめた.その結果,野生型のTTD-PHDと比較して変異体TTD-PHDでは,慣性半径R gが大きくなり粒子径が増大していることがわかった(図5).また,距離分布関数P(r)のプロファイルが大きく異なっており,特に変異体TTD-PHDではr=50 Aの辺りに特徴的な肩が現れた(図5).このことはTTD-PHDの高次構造が崩れ,2つのドメインが自由に運動している状態になっていることを示唆している.この変異体TTD-PHDを用いて,まず等温滴定型カロリーメトリー(ITC)によるH3K9me3ペプチドとの結合図5SAXSによるTTD-PHDの溶液構造の解析.(SAXSanalysis of TTD-PHD.)上図:野生型,変異体,S298phTTD-PHDのP(r)関数.下図:結晶構造から計算したTTD-PHD(水色)と溶液中のTTD-PHD(ピンク)のP(r)関数.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.を調べた.野生型TTD-PHDではH3K9me3ペプチドとK d=0.3μMで結合し,その化学両論比Nが1であったが,変異体TTD-PHDでは野生型に比べてH3K9me3ペプチドに対する親和性が落ち,さらに,その結合の化学両論比Nが約2となっていることがわかった(図6).これはPHDfingerとTTD領域それぞれにH3K9me3ペプチドが結合することにより,1分子のTTD-PHDに2分子のH3K9me3ペプチドが結合していることを意味している.つまりリンカーが適切にTTDに結合しなくなると,2つのドメインの相対的な位置がランダムになり,もはやTTD-PHDはヒストンH3テイルの修飾状態を1つ組みの“コード”として認識できなくなるのである.さらにこのときのH3K9me3ペプチドの構造をNMRで観測すると,野生型TTD-PHDに結合したH3ペプチドの二次元スペクトルとはまったく異なることがわかった(図7).このことから,ヒストンH3テイル上の複数の修飾を認識するためにはαヘリックス構造の誘起が必須であることがわかった.2.5リンカーのリン酸化によるUHRF1の機能制御TTDとPHD fingerの間のリンカーに存在するSer298はProteinKinaseA(PKA)によってリン酸化されること図6 ITC測定.(ITC measurements.)56日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)