ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

相関構造生物学によるUHRF1のヒストン認識機構の解明の形成により,PHD fingerとTTDの各々のドメインのヒストン結合部位がリング状構造の内側に向かい合い,1つのポケットを形成していた.このポケットに1分子のヒストンH3K9me3ペプチドが入り込んでいた(図2).2.3 H3K9me3ペプチドの認識機構とNMRによる構造解析ヒストンH3テイルは典型的な天然性領域で通常は特定の立体構造をとらない.しかし,TTD-PHDによって認識されるH3K9me3ペプチドは,TTD-PHDのコンパクトなポケットの中に入り込むことによりαヘリックス構造が誘起されていた(図2).このヘリックス構造の誘起はこれまでに構造が決定されているほかのヒストン結合タンパク質では観測されたことがなく新規の構造誘起機構であった.PHD fingerがH3K9me3ペプチドと分子間でβシートを形成し,主に静電的な相互作用を介して1~4番目のアミノ酸残基を認識していた(図3).また,この結合はArg2のメチル化に依存して結合が弱くなり,Lys4のメチル化に依存しないことから,UHRF1のPHD fingerはArg2のメチル化状態を認識するモジュールであること図3PHDfinger(左図)およびTTD(右図)によるH3K9me3ペプチドの認識機構.(Structure of H3K9me3 peptiderecognition by PHD finger(left panel)and TTD(rightpanel).)がわかった.一方でTTD領域はPhe152,Tyr188,Tyr191の芳香族アミノ酸の側鎖で形成されたaromatic cageによって9番目のリジンのトリメチル化を認識していた(図3).このようにUHRF1のTTD-PHDはヒストンH3テイル上に存在する距離的に離れた複数の修飾サイトを1つ組みの“コード”として認識しており,UHRF1が複雑なヒストン修飾の組み合わせをどのように解読しているのかを明らかにできた.上述したようにヒストンH3テイルの構造は典型的な天然変性領域であるが,TTD-PHDによって認識される際にはH3K9me3ペプチドはαヘリックス構造を形成していた.このαヘリックス構造の形成が結晶化のパッキングによる副産物でないことを確かめるために,NMRを用いた溶液中でのH3K9me3ペプチドの構造情報の取得を行った.15 NラベルしたヒストンH3K9me3ペプチド単体と,TTD-PHDと結合したH3K9me3ペプチドの1H- 15 N SOFAST-HMQCスペクトルの測定を行った.図4に示すようにH3K9me3ペプチド単体とTTD-PHD複合体の主鎖NHに由来する二次元スペクトルはまったく異なることが明らかになり,確かにUHRF1との結合によりH3K9me3ペプチドの構造誘起が起きていることがわかった.さらにTTD-PHD複合体中のH3K9me3ペプチドに対しては,1 H- 15 N HSQC,HNCO,HNCA,HN(CO)CAのNMR測定を行い,化学シフトの帰属を行った.その結果,H3K9me3ペプチドの5番目から8番目の領域がαヘリックス構造を形成し,1~4番目はβ構造を取っていることがわかった(図4).この結果は,結晶構造中で見られたH3K9me3ペプチドの構造とよく一致しており,H3K9me3ペプチドのαヘリックス構造の誘起が結晶化による副産物ではなく,TTD-PHDがH3と結合する際に起こる本来の認識様式を反映している構造状態であることがわかった.図4NMRによるH3K9me3ペプチドの解析.(Structural study of H3K9me3 peptide by NMR.)左図:H3K9me3ペプチドの1 H- 15 N HSQCスペクトル.赤はH3K9me3ペプチド単独,青はTTD-PHD複合体中のH3K9me3ペプチドの二次元スペクトル.右図:H3K9me3ペプチドの13 CAと13 COの化学シフトの分散による二次構造の予測.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)55