ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

ページ
62/94

このページは 日本結晶学会誌Vol57No1 の電子ブックに掲載されている62ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No1

有田恭平1.2 UHRF1の機能と構造UHRF1はN末端からUBL,tandem tudor domain(TTD),PHD finger,SRA domain,RING fingerからなるマルチドメイン・マルチファンクションタンパク質である.UHRF1はSRA domainによるヘミメチル化DNAの認識,RINGfingerによるヒストンH3のユビキチン化修飾,TTD-PHDによるヒストンH3の9番目のリジン残基の側鎖のトリメチル化(H3K9me3)を認識することから,エピジェネティックな生命現象の基盤となる制御を行う重要なタンパク質であると考えられている.2008年に筆者らを始めカナダ,アメリカのグループからSRA domainによるヘミメチル化DNAの認識機構に関する構造生物学的な研究が報告された.8)-10)その一方で,UHRF1はTTDとPHDfingerの2つのヒストン認識モジュールをもつが,UHRF1によるヒストンH3K9me3の認識に関する構造学的な基盤は不明であった.一般的に,PHD fingerはヒストンH3のN末端領域を認識し,Tudor domainはメチル化リジンを認識することが知られている.しかし,UHRF1のTTD-PHDのようにタンデムに並んだヒストン修飾読み取りドメインが,どのようにヒストンH3テイルに存在する複数の修飾を“コード”として認識するか,その分子基盤は不明であった.本稿では,X線結晶構造解析,X線溶液散乱(SAXS),核磁気共鳴(NMR)を用いた相関構造生物学によって明らかにした,UHRF1のTTD-PHDの構造とH3K9me3の認識機構の詳細について紹介する.11)2.相関構造解析によるUHRF1:H3K9me3複合体の構造と基質認識機構2.1 TTD-PHD:H3K9me3複合体の調製と結晶化TTD-PHD domainによるヒストンH3K9me3の認識機構を解明するために複合体の結晶化を行った.ヒト由来UHRF1のTTDとPHD fingerを含む123~366番目のアミノ酸の領域をpGEX-SUMO tag vectorにクローニングし,大腸菌株Rosetta2(DE3)を用いて発現させた.発現させたTTD-PHDはGSTアフィニティーカラム,陰イオン交換カラム,ゲルろ過カラムを用いて高純度に精製した.また,結晶化にはTTD内に存在する天然変性領域を9残基欠失させたTTD-PHDタンパク質と,ヒストンH3の9番目のリジン残基の側鎖がトリメチル化された1~12番目の領域の合成ペプチド(以下H3K9me3ペプチド)を用いて結晶化を行った.市販のスクリーニングキットを用いて結晶化条件の探索を20℃と4℃で行った.その結果,4℃でPEG3350を沈殿剤に用いたときにTTD-PHD:H3K9me3ペプチド複合体の結晶が得られた.得られた結晶のX線回折強度データの収集はPhoton FactoryBL-5で行い,2.9 A分解能の回折強度データを得た.回折強度データの位相計算は,UHRF1のTTDおよびPHDfinger単独の構造をサーチモデルにして分子置換法で決定した.得られた結晶の空間群はP4 22 12で,非対称単位に4分子のTTD-PHD:H3K9me3複合体が含まれていた.2.2 TTD-PHD:H3K9me3複合体の構造図2にTTD-PHD:H3K9me3複合体の全体構造を示す.TTDはβストランドから成る構造で,文字どおり2つのTudor domainを有する.PHD finger部分には3つの亜鉛原子が結合する.2つのドメイン間に相互作用はほとんどないにもかかわらず,TTDとPHD fingerは隣り合って位置し,中心に空間をもつリング状の構造をしていた.TTDとPHDの間には17アミノ酸残基で形成され,天然変性領域と予測されるリンカー領域がある.興味深いことに,リンカーは2つのtudor domainの間の溝に入り込み相互作用していた(図2).このTTDとリンカーの相互作用によってTTDとPHD fingerの2つのドメインの配向が決定され,高次構造が形成されていた.この高次構造図2UHRF1 TTD-PHDとH3K9me3ペプチド複合体の構造とH3K9me3ペプチドの認識.(Overall structure of TTD-PHDin complex with H3K9me3 peptide.)TTDと青色と水色,リンカーをピンク,PHD fingerをオレンジ色の表面図で示す.結合しているH3K9me3ペプチドを緑色のstick図で示す.下図に,UHRF1のドメイン構成を示す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.54日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)