ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

創薬等支援技術基盤プラットフォームで取り組む相関構造解析顕微鏡は大阪大学(岩崎憲治)と日本原子力研究開発機構(松本淳)のチーム,兵庫県立大学(ゲーレ・クリストフ)と名古屋大学(阿部一啓,大嶋篤典)から構成されるチームが担当し,NMRは横浜市立大学(西村善文,高橋栄夫)と,名古屋大学(廣明秀一,甲斐荘正恒)が担当している.電子顕微鏡を使ったタンパク質やタンパク質複合体の構造解析については,ここ数年の間に電子直接検出器の開発といったハードウェアの開発と振動補正といったソフトウェアの開発など,ハード,ソフト両面においてきわめて大きな進展があり,原子分解能に近い構造解析例の報告もなされるようになってきた.20),21)詳細は,本号の岩崎博士による最新の電子顕微鏡法の解説記事を参照されたい.この相関構造解析プログラムにおいて,岩崎(阪大),松本(原子力研)らは三次元の結晶構造に基づくシミュレーションによって発生させたさまざまなコンフォメーションの生体分子構造を二次元の電子顕微鏡データに当てはめる解析の高度化を行っている.22)ゲーレ,阿部,大嶋らは,非常に扱いが難しい多成分から構成される膜タンパク質複合体の電子顕微鏡解析の高度化を進めてきている.23)特にゲーレらはサンプル調製において独自のノウハウを蓄積してきており,これまで電子顕微鏡解析において試されていないさまざまな系に応用することが期待されている.またNMRは溶液状態でのタンパク質の相互作用界面を原子レベルで同定することができ,またタンパク質のフレキシビリティーやダイナミクスを解析することが可能な手法であるが,西村,高橋らはNMRを用いて,タンパク質の相互作用界面の解析や天然変性領域を含むタンパク質のコンフォメーション変化について解析を行っている.24),25)廣明,甲斐荘らは,甲斐荘らによって開発されたSAIL法を使い,創薬標的を念頭においたタンパク質の「大きな振幅をもつ遅い運動」の解明に活かすなど,新たな展開に結びつけている.26)PDIS事業においては,平成27年度から相関構造解析の支援を開始する予定である.すでに述べたように,タンパク質やタンパク質複合体のX線結晶構造解析とSAXSを併用した相関構造解析に加え,電子顕微鏡解析,NMR解析を組み合わせたプロジェクトの提案なども可能となる.申請が採択されれば,最先端の技術と経験に基づいたノウハウをもつ一線の研究者による支援を受けることができるので,構造解析の専門家のみならずさまざまなバックグラウンドをもつ生命科学者からの研究提案がなされることを期待したい.8.相関構造解析研究における世界の動向世界に目を転じると,Integrative Structural Biology,HybridMethodsと銘打った相関構造解析に関する国際会議やシンポジウムが,近年数多く開催されるようになって日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)きている.平成27年3月には米国カリフォルニア州タホ湖において,Keystone SymposiaとしてHybrid Methodsin Structural Biologyが開催予定となっている.27)これまで米国ではProtein Structure Initiative(PSI),PSI-2,PSI:Biologyと呼ばれるX線結晶構造解析やNMR解析を中心としたNational Institute of General Medical Science(National Institute of Healthの一機関)主導の大規模な構造生物学,構造ゲノム学プロジェクトが展開してきており,ハイスループット構造解析センターや全米中の大学や研究所の研究者から構成される分担機関が活動を進めてきた.28),29)さらに,ここ数年の電子顕微鏡法の急激な発展に伴い,National Resourceとして電子顕微鏡解析を支えるセンターの設置も進行中である.一例として,サンディエゴ地区のScripps研究所ではIntegrativeStructural and Computational Biologyという学科が新設されるとともに,最新の検出器を備えた電子顕微鏡が導入され,X線結晶構造解析,NMR解析の専門家とともに研究と大学院教育を開始している.30)一方,ヨーロッパでは全体では“Instruct”と呼ばれる相関構造解析研究を支えるネットワークが構築されており,各国においてはフランスのFrench infrastructure for integrated structuralbiology 31)やイスラエルのi-CORE 32)といったインフラストラクチャーの整備が進められてきている.さらにNMR装置の共用化,解析ソフトの統合化,Gridコンピューティングサービス,分子動力学,SAXSまでを一体化させたWeNMRと呼ばれるEUの統合プロジェクトも展開している.33)このように世界的にも相関構造解析型の構造研究を可能とする基盤整備が着々と進行している状況にある.9.相関構造解析研究の課題このところProtein Data Bankでは,最近の相関構造解析型の研究の発展に歩調を合わせ,複数の手法を組み合わせて得られた構造解析の結果を保存し,共有する仕組み作りや統一的な基準の設定などの課題について議論が進められている.特に発展の著しいクライオ電子顕微鏡,SAXSを用いて得られた構造解析結果を共有する仕組みや解析基準の設定はきわめて重要な時期に来ていると言えよう.また,高速での画像撮影が可能な電子顕微鏡用検出器やSerial Femtosecond CrystallographyなどのX線自由34電子レーザーを使った結晶構造解析技術の開発)によって,短時間に大容量のデータが蓄積されるようになってきていることから,これらのデータの保存や解析を支えるサーバー環境の整備や維持管理も今後の重要な課題である.実際に,電子顕微鏡用電子直接検出器であるK2 Summit(GATAN社)の共同開発が行われたカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)では,最新51