ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

湯本史明,千田俊哉解析に必要な基本ソフトウェアの共通化に関して議論を進めている.このようなSAXSによる生体高分子(複合体)のAb-initio概形解析に関しては現在論文数が飛躍的に伸びている状況にあり,2012年にはSAXSデータに基づいたタンパク質構造モデリングに関する論文発表に対してガイドラインも示されている.17),18)4.効率的なデータ測定の実現に向けてこれまでPDIS事業においては,ハードウェア,ソフトウェアの両面から高度化が進められてきた.その一方で,多くのビームラインがハイスペックになりつつある現在においては,各ユーザーがそれぞれのビームラインのパフォーマンスを十分に引き出しながら効率的に回折データ測定が行える環境を作ることが重要な課題となっている.そこで,PDIS事業をきっかけとして両施設の解析領域メンバー全員で測定技術の共有やさらなる発展に向けた議論を開始しており,タンパク質解析用ビームラインでのより高度な,より効率的なデータ測定の実現につなげていく試みがなされている.これらの活動の一環としてPFでは山田らによってインターネットのライブ配信を通じた公開実験(2014年2月(2回),12月(1回))が開催されており,S-SAD法を用いた構造決定のための回折データ測定におけるノウハウの発信も行われている.5.ラピッドアクセス制度の紹介平成26年度におけるPDIS事業のビームタイム支援における特筆すべき事項としては,ラピッドアクセス制度の創設が挙げられる.結晶化条件のスクリーニングを経て結晶を得た際に,いち早く結晶にX線を当てることができれば,結晶性を確実に判定することができる.またタンパク質やタンパク質複合体などのサンプル調製が完了した際にはすぐにSAXS測定を行うことができれば,サンプルが単分散で存在し,溶液構造解析に十分な質であるかどうかを判定することができる.これと同時に溶液条件の検討を行うことができれば,凝集・会合成分が生じない条件を探索する上でも有効な手段となるはずである.このように,ユーザーが必要に応じて最短の待ち時間でビームラインにアクセスできれば,より効率的に結晶化条件やサンプル調製の条件を最適化することが可能となり,放射光X線を使った結晶構造あるいは溶液構造解析の一連のプロセスの大幅な時間短縮につなげられる.この目標を達成するために,PDISの解析領域では,平成26年秋期からラピッドアクセススクリーニングビームタイムを開始した.これは,PDISの課題をもっていれば,簡単な手続きを経て結晶や溶液を施設側に送るだけで,回折・散乱データが返送される仕組みである.具体的には,Uni-Puckと呼ばれる結晶交換ロボット用カセット(1カセット当たり16結晶を収納することが可能)1つ分,あるいは溶液サンプル4つ分についてユーザーの希望する放射光施設に送ると,施設側がPDIS枠のビームタイムを利用して,各結晶につき数枚の回折データを,あるいは溶液サンプルについてはバッファーとサンプル濃度3点の散乱データを取得して,ユーザーにデータを返送するというものである.なお,ロボット用カセットUni-Puckはラピッドアクセス制度に限らず,通常のビームタイムにおけるX線回折実験においても測定の効率化にきわめて有用なものであることから,放射光施設に用意されている貸出キットを活用されることをお勧めする.貸出については,PDISにおいて提供されるビームタイムの申請段階で,利用予定の放射光施設のビームライン担当者に貸出キットの利用希望を伝えていただくことで入手可能である.6.施設の共用促進にむけた講習会活動これまで放射光X線を使ったタンパク質構造解析に馴染みの深い研究者によるPDISのビームタイム利用を中心に紹介してきたが,高度に構築されてきた施設をより広く活用できるよう初心者向け講習会を積極的に開催してきた.ここには構造解析を行っている研究室の大学生,大学院生,博士研究員などの若手研究者が多く参加してきているが,細胞生物学や分子生物学を専門とする研究室からもさまざまな年代の研究者が参加しており,構造解析技術や分野の拡大に一役買っている.PFにおいては解析領域の松垣,山田,大規模結晶化装置を担当する生産領域の加藤龍一らを中心に年3回のタンパク質結晶構造解析の講習会が開かれ,また清水,西條らによって,SAXS講習会が毎年開催されている.それらに加え,テストサンプルをもつ研究者によるSAXS用ビームラインのトライアルユースも積極的に支援してきた.SPring-8においては4日間にわたってX線結晶構造解析について体験する初心者向けの講習会を年3回開催してきており,データ測定の見学や簡単なケースでの構造解析,さらには困難な構造解析における対処法などについて学ぶ機会を提供してきている.また,北大では19S-SAD法や関連技術の開発)に加え,PF(2014年3月)やSPring-8(2015年1月)と共同でS-SAD講習会を行うなど,開発した技術の一般化のための活動を行ってきている.7.電子顕微鏡&NMRとの連携(相関構造解析)前述のとおり,PDIS事業では放射光X線を活用した結晶構造解析とSAXSを併用することによりタンパク質のドメインの結晶構造を全長分子のSAXSデータに基づいた構造モデルの中にフィッティングするといった解析が可能であるが,さらにほかの手法との相関構造解析を目的として,平成24年度後期から電子顕微鏡とNMRを使った構造解析方法の高度化も進めてきた.現在,電子50日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)