ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

有賀寛子,朝倉清高われた.D. C. Koningsbergerは,Rh K-吸収端を測定し,差スペクトル法により,Rh-Tiの結合距離を0.342 nmと決めている.33)一方Hallerらは,同じくRh K-edge XAFS法を粉末TiO 2担持Rhナノ粒子に対して適用し,0.253~0.256 nmにRh-Ti結合を観測した.34)このように,観測者によりRh-Ti結合の距離が異なる.この主な理由は,原子番号の大きく,配位数も大きい金属-金属のXAFS振動のほうが金属-Tiの結合を隠してしてしまうからである.XAFS振動χ(k)には以下で示すような偏光依存性がある.35)2χ( k) = 3∑cosθi?χi( k)(1)iここで,θi,χi(k)は,それぞれi種結合の方向と電場ベクトルのなす角およびi種結合に由来するXAFS振動である.もし,単結晶のような平坦基板を用いると,基板に対して垂直方向の偏光を入れると基板方向の情報を得ることができるため,Tiとの結合を選択的に取り出すことができる.超高真空下でTiO 2を高温処理するとTiが還元される.そこで,TiO 2(110)表面にNiを低担持量(0.01 ML)載せて,Ni K-edgeのXAFS測定を行った.その結果,Niは原子状にTiO 2上に分散することがわかった.さらに詳細構造をしらべると,Ni-Tiの結合は観測されず,Niの図4TiO 2(110)表面の低被覆率Niの構造.(Structure ofNi at low coverage on the TiO 2(110)surface.)Ol andOuはBridgingとIn-plane酸素原子を表す.第1配位圏には,酸素しか観測されなかった.NiのTiO 2上の存在位置について,式(1)を用いて,解析すると,TiO 2(110)平坦平面上(テラス上)にはない.むしろ,図4に示すステップと呼ばれる高さの違うテラスのへりに存在するBridging酸素上およびIn-plane酸素と結合して存在する.これは,Bridging酸素上をNi原子が拡散し,ステップまで到達し,上のテラスのIn-plane酸素と結合を作り安定化するためと考えている.このNiの存在する位置は,本来Tiが存在する位置と一致している.35)-37)さらにNi量を増やすと大きさが揃った平坦なクラスターが形成し,クラスターのサイズは変化せずその数が増すself-regulated growthを起こす.38)大きさの揃ったクラスター形成と担持量に比例して,そのクラスターの数の増加は,CuやPtでも観測されている.39),40)Niクラスターについて,PTRF-XAFSで測定すると図5に示す構造で表面に存在することがわかった.特徴として,表面の酸素と強く相互作用するようにNiが折れ曲がった構造を取る.これはちょうど面心立方格子の(110)面に対応している.実際LEED測定からNiの(110)面がTiO 2(110)面上に成長することも報告されている.41)さらに,酸素との結合が観測され,Niは表面酸素と強く結合して安定化している.その大きさは,ちょうどBridging酸素とのマッチングで決まっており,大きさが揃った平坦なナノ粒子が生成する理由と考えられる.一方,表面の酸素欠陥を増加させるため,Ar+イオンで表面をたたき,図5 TiO 2(110)表面の高低被覆率Niの構造.(Structureof Ni at high coverage on the TiO 2(110)surface.)赤大球,紫大球:酸素,黒小球がTI,青球がNiを表す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.酸素を脱離させた表面にNiを蒸着すると,直線構造をもつNiトライマーがステップの酸素と強く相互作用して存在することが観測された.42)このように,金属種は表面のアニオンにより安定化する.この原理をつきつめると,酸素との親和性が非常に小さいCuやAuでも,これらと親和性の大きい硫黄化合物で表面を修飾することで,原子状に高分散させることができる.43)-46)特にメルカプト安息香酸を用いると,SH基がAuをしっかり固定化し,カルボン酸基で,TiO 2表面に作ることができるので,安定に,Auを一原子状で,高分散できる.44)5.まとめ物質―特に表面の構造解析には,回折法が最も有力である.しかし,回折法の場合には,長距離秩序を必要44日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)