ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

有賀寛子,朝倉清高ている(Tasker則).5)1×1構造でも6配位Tiを架橋しているO列(bridging O,図1b A)により無極性表面となり安定化していると考えられる.1×1構造のbulk位置からの緩和距離は,低速電子線回折法(LEED-IV),6)放射光X線を用いた表面X線回折法(SXRD)7)や光電子回折(PhD),8)中エネルギーイオン回折法(MEIS)9)や密度汎関数法(DFT計算)10)などにより報告されている.この表面の物理的,化学的性質を決定している要因の1つとして,bridging Oが欠損した構造,つまり,酸素欠陥が挙げられる.1×1構造の5配位Ti列のTiもbulk同様4価であるが,酸素欠陥が生じることでd軌道を1電子が占有する3価のTiが表面に露出する.このサイトには,ギ酸11)や水,12)アルコール13)などの吸着が起こり,分解活性を示すなど触媒反応に寄与する.こうした酸素欠陥サイトの研究が重要である.一方,水素はbridging Oに吸着し,14)表面の電子状態を変化させる.15)2.2 TiO 2(110)-(1×2)構造さらに還元が進むと,還元度合と調製温度に依存した1×1構造以外にさまざまな還元表面構造が形成される.16)周期的還元構造の1つに,1×2構造がある.X線光電子分光(XPS)スペクトルでは,1×2構造が形成するとTi 3+が明瞭に観察されるようになる.2)1×2構造について,さまざまな手法を用いた観測が報告され,構造モデルが提案されてきた.16)-19)図2aはbulk終端モデルから酸素列が1つおきに欠損するミッシングロー(missing row)モデルであり,図2b,c,dはそれぞれ組成がTi 2O 3,Ti 2O,Ti 3O 5の列を1×1テラス上に形成したアディドロー(added row)モデルである.表面第1層の配列がそれぞれ異なるのみであるため,bulk情報も含まれる表面X線解析やLEED-IV測定などでは,決定的な図2TiO2(110)-(1×2)構造の提案されているモデル構造.(Model structures for the TiO 2(110)-(1×2)structure)(a)ミッシングロー(missing row)モデル,(b),(c),(d)それぞれ組成がTi 2O 3,Ti 2O,Ti 3O 5の列を1×1テラス上に形成したアディドロー(added row)モデル.白丸:bridging oxygen,灰丸:bulk O,青丸:bulk Ti,桃色丸:O,赤丸:Ti.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.根拠を得ることはできていない.反射高速陽電子回折法(RHEPD)は,本質的に反射高速電子回折(RHEED)と同様の構造情報を与える.陽電子は電子と逆の符号をもっているので,正の結晶ポテンシャルの静電反発により,陽電子を表面すれすれの角度で入射させると全反射を起こし最表面に敏感な表面構造情報を得ることができる.20)兵頭らは高エネルギー加速器研究機構の加速器を用いて,陽電子を効率よく発生させ,RHEPD法によりさまざまな物質の表面構造を決定している.21)-23)RHEPD法をTiO 2(110)-(1×2)表面に応用した結果をここに述べる.入射角を臨界角以下で徐々に大きくしていくと,全反射領域で表面1層の情報を得る.さらに,入射角を大きくしていき,臨界角を超えると,2層目,3層目と陽電子が侵入し始め,各層ごとの詳細構造を解析できる.このようにRHEPDは表面第1層から表面近傍の構造を精度よく決定できる手法である.望月らは上述した4つの構造TiO 2(110)-(1×1)に対して,ロッキンカーブをシミュレートし,R因子が小さくなるように構造最適化した.24)4つのスペクトルの中でTi 2O 3モデルのみが,実験結果をよく再現できた.最表面敏感の手法を用いたところ,過去25年間決定できなかった構造が,明瞭に見えてきている.3.光触媒としてのrutile型TiO 2-ミュオンを用いた研究TiO 2は,本多・藤嶋らにより,紫外光照射下での水の光分解反応が見出されて以来,25)光触媒として注目されており,学術的・工業的興味から幅広く研究されている.光触媒反応は一般的に次の3段階により進行する.1光吸収による価電子帯から伝導帯への電子励起による励起電子と正孔の生成.2励起電子と正孔の表面への拡散.3励起電子による還元反応,正孔による酸化反応.光触媒反応効率の向上には,1から3の過程の原子レベルでの理解と制御が重要となる.可視光応答化はTiO 2をベースとした光触媒の重要な課題の1つである.通常,rutile型TiO 2のband gapは3.0 eVであるため,紫外領域の光を吸収することで,光触媒反応が進行する.しかし,紫外光は地上に降り注ぐ太陽光に数%しか含まれないため,約90%を占める可視光を利用することを目的とした,可視光応答型光触媒の研究が数多く報告されている.TiO 2(001)表面は酸素が欠損した4配位Tiがあり,バンドギャップが3 eV以下となり,可視光に応答して,ギ酸の光分解反応を触媒する表面である.3)このように光触媒では酸素欠損が重要な役割を果たす.光触媒であるTiO 2内の欠陥構造は,そのband gap近傍に電子状態が存在するため,光吸収や電子伝導に重要な役割を果たす.一方酸素欠損をキャラクタリゼーションすることは難しい.われわれは,ミュオン42日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)