ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

町田晃彦図5LaD Ox222311220simulationx=0x=0.6x=1.01.52.02.53.0d-spacing (A)八面体サイト占有のLaD xの中性子回折シミュレーションパターン.(Simulated neutron diffraction patternsof LaD x with the octahedral deuterium atoms.)の結果であるが,この程度の占有率であれば,奇数指数の反射は十分に強度が観測できることを示している.しかし,実験結果は奇数指数の反射がほぼ完全に消失している.このため,圧力誘起相分離によって形成された低濃度相はNaCl型構造の1水素化物LaDであると結論付けられる.この結果は2.3.1項で八面体サイト占有を仮定した場合と結果的に一致していることになる.NaCl構造1水素化物は侵入型水素化物ではPdH 1)やg-CrH 29)が知られているが,希土類金属水素化物ではこれまで存在しないと考えられてきた.しかし,高圧力下における相分離の生成物という特異な条件下では存在することが初めて示された.第一原理計算によって(LaH+LaH 3)の状態とLaH 2との熱力学的安定性の評価を行ったところ,高圧力下ではLaH 2として存在するよりも(LaH+LaH 3)の状態のほうが安定であることが確認されている.6)2.4.2八面体サイトの安定化低濃度相の水素組成x 2が実験的に決定されたため,高濃度相の組成x 1は相分率から見積もることができる.LaD 2のX線回折の結果から得られた相分率は15 GPaでn~0.24であるため,x 1は約2.32と見積もられる.しかしながら,電子状態が半導体的になるには水素組成が低い.高濃度相における四面体サイトの占有率が常圧と同じ0.94(4)であると仮定しても,八面体サイトの占有率は15 GPaで0.44であり,半分にも至っていない.図6に相分離後の13 GPaと15 GPaの中性子回折パターンを示したが,わずかに違うことがわかる.X線回折の結果からの13 GPaでの相分率はn~0.2であり,x 1~2.25と見積もられる.分率の増加を反映して,LaD相の回折線の強度は微増している.これに対して,高濃度相の強度は例えば111反射では半分程度になる一方で220反射は微増している.表2に示した構造因子F(hkl)からは,奇数指数反射ではg D(O)が増加するとF(hkl)は小さくなることがわかる.このため,高濃度相の111反射の強度減少はgD(O)の増加で説明できる.220反射については,gD(T)200111Intensity (arb. units)54321LaD 2311 LaDx220 s220 LaDxdiamond200 s13 GPa111 LaDx01.5 2.0 2.5 3.0d-spacing (A)図6表3LaD 2311 LaDx220 s200 s15 GPa1.5 2.0 2.5 3.0d spacing (A)LaD 2の13 GPaおよび15 GPaにおける中性子回折パターン.(neutron diffraction patterns of LaD 2 at 13GPa and 15 GPa.)添え字Sの指数は低濃度相の回折線,LaD xは高濃度相の回折線を示している.常圧,13,15 GPaにおける低濃度相の分率と高濃度相の推定した占有率,組成ならびに111,200,220反射の構造因子F(hkl).(Phase fraction of lowerconcentrationphase, estimated site occupancies,deuterium concentration and form factor for 111, 200,and 220 reflections.)P(GPa)ng D(T)g D(O)x 1F(111)F(200)F(220)000.94(4)0.09(6)2.0(1)30.5614.8085.53130.20.950.352.2523.628.4093.00150.240.860.62.3216.953.1994.75が一定であればgD(O)が増加すると強度が増加する.しかし,実際には111反射の減少ほどに強度は増加しないため,gD(O)の増加をほとんど相殺するように2g D(T)が減少していることになる.ここで,gD(O)+2g D(T)は水素組成を表しているため,13 GPaから15 GPaへの加圧で水素組成としては2.25から2.32へわずかに増加するが,内訳としてはg D(O)が大きく増加しているのである.ここで,仮に13 GPaでgD(O)=0.35,15 GPaでgD(O)=0.6としたきのx1,gD(T)ならびに111,200,220のF(hkl)を表3に示した.参考までに常圧での値も示しているが,13 GPaでgD(O)=0.35としたときに,gD(T)は常圧と一致する.また,15 GPaではgD(O)=0.6と仮定すると111反射の強度が13 GPaのおよそ半分になる.したがってgD(T)は0.86まで減少することになる.予備的な補正を施した中性子回折パターンのRietveld解析結果でも高濃度相で上記見積もりと同程度の占有率が得られている.この結果は水素占有サイトの安定性が高圧力下で変化していることを示しており,水素にとって八面体サイトがより安定化していく傾向にあることを示唆している.LaH 2(LaD 2)の相分離の研究は,放射光X線回折で構造変化を探索→(金属格子の)構造変化の詳細を測定→現象に対して中性子回折実験を測定すべき条件を決定220 LaDxdiamond111 LaDx38日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)