ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

X線および中性子を用いた水素-金属系の構造研究ではないため正確には分率を求めることができない.参考までに111,200,220,311,222の5種類の回折線を全周で積分した強度から分率を見積もると,17 GPaではn~0.27となる.x2は圧力によって変化しないと仮定して,X線回折の結果から推定した水素組成を表1にまとめた.2.1節で述べたとおり,水素濃度が3に近づくと電子状態は半導体的になるが,その境界は常圧でおよそ2.7である.したがってLaH 2よりも水素量が増加し,LaH 3に近い組成になっていれば電子状態の変化として観測ができるはずである.実際,LaH 2の赤外反射率がおよそ12 GPaで大きく不連続に減少することが観測されている.4)これは半導体領域,すなわち,x 1が3に近い領域が形成されたためと考えられるが,前述のX線回折結果からの推定では,そこまで水素濃度が増加していないようにみえる.2.4中性子回折による相分離生成相の同定2.4.1 NaCl型1水素化物の発見前項では,X線回折結果をもとに相分離による生成相の水素組成の推定を試みた.しかし,仮定によって値が大きく異なるため,水素組成は明らかにはできない.そこで,水素組成および占有サイトを決定するために中性子回折実験を実施した.水素化物LaH 2では軽水素の非干渉性散乱により回折パターンのバックグラウンドが大きくなり,解析が困難となるため,重水素化物LaD 2を使用した.中性子回折実験に先立ってLaD 2の高圧力下X線回折測定を実施し,相分離現象に同位体効果はないことを確認している.6),7)中性子回折実験はJ-PARC物質・生命科学実験施設のBL21大強度全散乱装置NOVAを利用して実施した.NOVAは中性子の強度が強いために,高圧装置中の少量の試料でも測定が可能である.高圧発生装置であるパリ・エディンバラ高圧プレスをNOVAの真空槽に導入して実験を実施した.詳細はほかを参照していただきたい.6),7)常圧の参照データとして6 mmfのバナジウム管に入れたLaD 2の中性子回折パターンを測定し,Z-Rietveldプログラム27),28)を使用して構造パラメーターを決定した.四面体サイトと八面体サイトの占有率はそれぞれ0.94(4),0.09(6)であり,試料の重水素組成は理想的な2重水素化物に近い2.0(1)であると求められた.X線回折で観測されたLaD 2の相分離圧力である11 GPa以上で新たな回折線の出現が観測され,これらは低濃度相からのものであると同定された.そこで,相分離後の水素占有状態を決定するために,まずはX線回折パターンと中性子回折パターンの比較を行った.図4は13 GPaにおけるそれぞれの回折パターンを示しているが,明らかに違うことが見て取れる.低濃度相の回折線には指数に添え字Sを付けている.この低濃度相の回折パターンでは,X線回折ではLa金属格子構造であるfcc構造の反射が観測されている.しかしながら中性子回折でfcc構造での奇数の指数の反射が観測されていないことがわかる.表2に指数と四面体サイトと八面体サイトの占有率をgD(T),gD(O)としたときの構造因子F(hkl),ならびに低濃度相での観測の有無をまとめた.中性子散乱長bがLaとDではそれぞれb La=8.24 fm,b D=6.671 fmであり,Dの回折強度への寄与もLaと同程度となる.このため,LaとDがNaCl型に配列したLaDを形成することで,奇数の指数の反射が観測されないことが説明できる.NaCl構造LaDは見方を変えれば,fcc-Laにおける八面体サイトのすべてをD原子が占有している構造である.八面体サイトの占有率の違いによって,中性子回折強度がどの程度変化するかをシミュレーションで確認した.図5は八面体サイトの占有率が0,0.6,1.0の場合のシミュレーション結果である.細い実線は占有率が0.6図4Intensity (arb. units)400 fct004 fctLaD 213 GPa222 s311 s222 fct311 fct113 fct220 s220 fct202 fctdiamond200 s200 fct002 fct111 s1.5 2.0 2.5 3.0d spacing (A)111 fctNDXRDLaD2の13GPaにおけるX線回折パターンと中性子回折パターン.(X-ray diffraction patterns andneutron diffraction pattern at 13 GPa of LaD 2.)添え字Sの指数は低濃度相の回折線を示している.の挿入図は1水素化物の結晶構造である.表2指数と構造因子F(hkl).(Form factor for odd and even index.)X線回折と中性子回折における低濃度相での回折線の観測の有無も示している.h, k, lhklF(hkl)XRDNDodd111, 311,…4|b La-gD(O)b D |○N/Aevenh+k+l=4m+2200, 222,…4|b La+(g D(O)-2g D(T))b D |○○h+k+l=4m220, 400,…4|b La+(g D(O)+2g D(T))b D |○○日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)37