ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

町田晃彦図3Intensity (arb. units)LaH 2 /He20.3 GPa10 312.2 GPa10 20.8 GPa10 1681012141610 42θ(degrees)111200度は加圧に伴って増加し,約17 GPa以上でほぼ一定になる.同様な変化を見せるものとしてCeのisostructuralg?a相転移がある.22)Ceのg?a相転移は室温で1 GPa以下の低圧で起こるが約15%の大きな体積差を伴うという類似点はある.では,LaH 2で観測された変化も高圧相への相転移かというと,そうではない.われわれの実験では60 GPaまでの加圧でも2相の分率がほとんど変化せず,単相にならないことを確認している.La金属中への水素の固溶は発熱反応であるため,水素は金属中へ固溶しているほうが安定である.1)また,水素ガスの化学ポテンシャルは高圧力下では1 GPa以上で急激に増大し,水素の金属への固溶度もそれに伴って増加するため,高圧力下で金属格子外へ水素が放出されるとは考えにくい.そのため体積の小さい相は低濃度相であり,その形成によって余剰となった水素原子は結晶格子間を移動し高濃度相を形成していると推測される.高濃度相,低濃度相の組成をx1,x2,低濃度相の相分率をnとすると,LaH 2⇔(1-n)LaH 1?x1+nLaH x2(1)と表すことができる.減圧するともとに戻ることは確認されており,試料へ水素の出入りのない閉じた系では,加圧によって自発的に水素濃度に濃淡が生じたことになる.2.3相分離による生成相の推定2.3.1低濃度相の水素量の推定水素濃度が2よりの低い領域では室温でdhcp-Laへの水素固溶体とLaH 2の共存領域であることがLa ?H系の状態図から示されている.Laの高圧相はdistorted-fcc構23),24造)であるので,相分離によって形成される低濃度相はfcc-Laの水素固溶体である可能性が第1に考えられる.報告されている状態図ではfcc-Laの水素固溶体は高220311222LaH 2のX線回折パターン.(X-ray diffraction patternsof LaH 2.)12.2 GPaと20.3 GPaは相分離後のパターンである.温で出現し,その水素固溶量の上限は約760°Cのときに最大値H/La~0.25である.10),11)このとき水素原子の占有サイトは実験的には調べられていないが,水素濃度が希薄な状態では八面サイトが安定であることが計算から示されている.25)それではX線回折結果から得られた体積変化から予想される水素組成はどうであろうか.水素が格子間に侵入することによって一様に結晶格子が膨張すると考えると,結晶格子の体積Vは,V=V 0+v Hx(2)と書ける.このときLa金属とLaH 2の単位体積から,水素原子1個当たりの体積膨張は常圧でv(0 T H GPa)=4.25 A 3 /H-atomとなる.1)ここで,この量は四面体サイトを水素が占有した際の膨張率であること,厳密には連続固溶している状態に対する値であることに注意されたい.高圧力下では金属とその水素化物では圧縮率が異なるため,常圧での体積膨張率は使用できない.高圧力下,例26えば約11 GPaにおけるLa金属)とLaH 2の体積から膨張率を求めると,およそv(11 T H GPa)=5.9 A 3 /H-atomとなるため,低濃度相の水素組成はx 2~0.6と見積もられる.それでは八面体サイト占有を仮定したらどうであろうか.ランタン水素化物では八面体サイトのみを占有している状態は報告がないため,同じfcc構造をもち,八面体サイト占有の金属水素化物であるパラジウム水素化物の体積膨張率v(0 O H GPa)=2.47 A 3 /H-atomを用いることにする.1)四面体サイト占有と八面体サイト占有では,常圧と高圧での体積膨張率の比が同じであると仮定すると,v(11 O H GPa)=3.4 A 3 /H-atomとなり低濃度相の水素組成はx 2~1.0と見積もられる.これらの結果から,四面体サイト占有では状態図上での水素固溶限界値の2倍以上,八面体サイト占有では約4倍となる.2.3.2高濃度相の水素量の推定高濃度相は低濃度相形成に伴って余剰となった水素原子が空いている八面体サイトを埋めている.そのため高濃度相の水素組成x 1は低濃度相の組成x 2と相分率nから見積もることが可能である.ここでnはX線回折の積分強度比から見積もることができるが,図2を見てもわかるとおり,均一な強度分布をもったデバイリング表1X線回折の結果から推定される体積膨張率と相分離後17 GPaの水素組成.(Estimated volume expansionrate and hydrogen contents at 17 GPa based on theresults of the X-ray diffraction.)占有サイトv H(A 3 /H-atom)x 2 x 1 n0 GPa 11 GPa 17 GPa四面体4.255.90.62.50.27八面体2.47 1)3.61.02.40.2736日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)