ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

X線および中性子を用いた水素-金属系の構造研究相補的に利用した金属-水素系の構造研究について紹介する.特に高圧力下で観測されたランタン2水素化物3)-5の相分離現象)とそれに伴う新規構造水素化物の形6),7成の発見)はX線回折と中性子回折の相補利用による研究の好例であるため,これを中心に紹介する.また,最後に現在進行しているプロジェクトについても簡単に紹介したい.2.ランタン水素化物の圧力誘起相分離2.1ランタン水素化物ランタン2水素化物(LaH 2)で観測された高圧力下における相分離現象について紹介する前に,ランタン水素化物の結晶構造について簡単に説明したい.希土類金属は水素と反応し侵入型水素化物を形成するが,化学量論的組成として2水素化物(RH 2)と3水素化物(RH 3)が存在することが知られている.1),8)この水素化物は水素/金属比が最大で3/1となる高密度水素化物の典型である.希土類金属で最もサイズの大きいLaは常温常圧で二重六方最密充填(dhcp)構造をとる.9)水素化物を形成すると金属格子が面心立方(fcc)構造へと変化するが,このときLa金属格子はおよそ20%膨張する.水素原子が占有する金属格子間サイトはLa金属原子が作る四面体サイトと八面体サイトの2種類ある.LaH 2では理想的にはすべての四面体サイトを水素原子が占有し蛍石(CaF 2)構造を形成する(図1a).さらに八面体サイトへも水素原子が侵入し,すべての格子間サイトが占有されるとLaH 3となる(図1b).1),8)水素濃度H/Laが小さい領域ではLaに水素がわずかに溶けている固溶体とLaH 2の2相共存であり,化学量論的組成で1水素化物は通常形成されない.10),11)一方でLaH 2からLaH 3の間は水素濃度が連続的に変化することが可能である.LaH 2から水素量が増加すると体積も増加すると思われるかもしれないが,実際は約3%格子体積が収縮する.12)これは,四面体サイトと八面体サイトでは水素1sと混成するLa 5d軌道の形状が異なることによる結合状態の違いに起因すると考えられている.13)このような結合状態の違いは電子状態にも強く影響しており,LaH 2では電気伝導は金属的であるが,LaH 3に近づくとバンドギャップが形成され半導体的となる.1),8)これは八面体サイトの水素とLaとのs?d混成によって価電子帯に形成された新たなバンドのためであると考えられる.13)高圧力下ではこのような水素-金属相互作用の変化に起因した構造や物性の変化が期待され,実際,イットリウム3水素化物などでは高圧力下で長周期構造の形成や絶縁体-金属転移といった興味深い現象が観測されている.これらについては本稿では触れないため,興味がある方はほかの解説など14)-21)を参照していただきたい.2.2 X線回折により観測された圧力誘起相分離高圧力下というパラメーターは直接的に原子間距離を縮め,原子間相互作用をコントロールすることができる.LaH 2は前述のとおり八面体サイトが非占有であるが,原子間距離を縮めた際に非占有サイトがあることが系にどのような影響を及ぼすか興味がもたれる.外部から水素の供給がない状態でLaH 2を加圧したところ,ユニットセルの大きさの異なる2つの相への相分離を観測した.高圧力下におけるLaH 2の構造変化の観測はSPring-8の原子力機構ビームラインBL22XUに設置されたダイヤモンドアンビルセル用回折計を利用して実施した.実験の詳細は割愛させていただくが,興味がある方はほかを参照していただきたい.3),5)図2には典型的な二次元X線回折パターンを示す.試料封入直後においてはfcc構造で指数付けできる回折パターンが得られており,試料はLaH 2の単相であることが確認されたが,高圧力下では約11 GPaで新たな反射が出現する.リングでは少々わかりにくいが,より単結晶的な試料では元の反射のちょうど外側に新たな反射が出現していることが確認されている.5),7)これらの新たな反射はfcc構造で指数付けすることができ,母相との体積差は約17%と非常に大きい.これはLa金属が水素化物を形成した際の格子体積変化(約20%)に匹敵する.図3に二次元パターンを積分して得られた一次元パターンを示す.新たな反射の強図1fcc-LaH 2とfcc-LaH 3の結晶構造.(Crystal structuresof(a)fcc-LaH 2 and(b)fcc-LaH 3.)図2LaH 2の二次元X線回折パターン.(2-dimentionalX-ray diffraction patterns of LaH 2.)0.8 GPa,12.2GPa,20.3 GPaで測定したパターン.12.2 GPaと20.3 GPaは相分離後のパターンである.矢印は新たに出現した回折線(一部)を示している.日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)35