ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

金谷利治,高橋伸明,井上倫太郎,西田幸次,松葉豪り,部分伸張鎖結晶の可能性を示唆した.前述したように融点以上の250℃でせん断流動により生成した配向物を融点以下に降温してアニールするとケバブが成長した(図6参照).このことは配向物がシシケバブ前駆体であることを強く支持した.次の問題はこの配向物からどのようにしてシシケバブが成長するかを明らかにすることである.最近,250℃でせん断流動により生成させ,いったん融点以下の210℃に降温しケバブを生成させた後,再度250℃に昇温しケバブを融解させた.その狙いは,もし210℃でシシケバブが生成していたなら2回目の250℃昇温後ケバブは融解するが,シシは生き残ると考えたからである.その際のシシ結晶成長のメカニズムはいわゆる「自立成長過程」17)である.これを確認するために210℃でアニールする前後で配向物のWAXDマッピンを250℃で行い,結晶サイズの分布の評価を行った.もし,シシ成長が起こっていたなら,平均的にc軸方向の結晶サイズが大きくなると予想できる.実験結果の詳細は現在解析中であるが,予備的な結果からは210℃でのアニール前後でc軸方向の結晶サイズの増大は観測されなかった.すなわち,シシの生成は少なくとも誤差の範囲ではないと考えられるが,最終結論はより詳細な実験を待たねばならない.4.おわりにここで述べた流動および変形に誘起された高分子結晶化の研究はまだまだ発展途上である.1つめのトピックで見たように,シシ生成には種々の因子が関係しており,シシケバブの生成機構は必ずしも1つでないことがわかってきた.多分,高分子鎖をいかに引き延ばすかがシシケバブ生成の鍵なのであろう.その過程で,時には高分子量成分が重要な役割を担う場合もあれば,低分子量成分が主役を演じる場合もあるようである.測定の観点からみれば,この研究で各分子量成分がどのようにしてシシケバブのどこに取り込まれていくかを見極められたのは小角中性子散乱のお陰である.しかし,ここでSAXSのデータがなければ,定量的な解析ができないことは明白であり,SANSとSAXSの相補利用はきわめて重要であることを示している.2つめのトピックで示したように,融点以上のせん断流動印可により生成するマイクロメートルスケールの配向物がシシケバブ生成の前駆体として働くなら,これもシシケバブ生成の1つの機構と考えるべきである.ここではマイクロビームX線が主役を演じ,研究は大きく前進したが,残念ながらまだ結論がでない.高分子のような広い空間範囲で階層的構造を作る複雑な系の研究には,やはり光学顕微鏡,光散乱,X線などのマルチプローブ研究でなければ進展はきわめて遅くなるであろう.マルチプローブの活用は盛んになることは疑いがない.文献1)金谷利治:第4章高分子の結晶構造と非晶構造,編修松下裕秀,高分子の構造と物性,講談社(2013).2)J. D. Ferry: Viscoelastic Properties of Polymers, John Wiley &Sons, New York(1980).3)A. Keller and J. W. H. Kolnaar: Processing of Polymers, H. E. H.Meijer, Ed., VCH, New York(1997).4)M. Seki, D. W. Thurman, J. P. Oberhauser and J. A. Kornfield:Macromolecules 35, 2583(2002).5)B. S. Hsiao, L. Yang, R. H. Somani, C. A. Avila-Orta and L. Zhu:Phys. Rev. Lett. 94, 117802(2005).6)T. Kanaya, G. Matsuba, Y. Ogino, K. Nishida, H. M. Shimizu, T.Shinohara, T. Oku, J. Suzuki and T. Otomo: Macromolecules 40,3650(2007).7)Y. Ogino, H. Fukushima, G. Matsuba, N. Takahashi, K. Nishida andT. Kanaya: Polymer 47, 5669(2006).8)F. Azzurri and G. C. Alfonso: Macromolecules 41, 1377(2008).9)金谷利治,松葉豪,西田幸次:日本結晶成長学誌37,43(2010).10)G. Matsuba, C. Ito, Y. Zhoa, R. Inoue, K. Nishida and T. Kanaya:Polym. J. 45, 293(2013).11)T. Kanaya, A. I. Polec, T. Fujiwara, R. Inoue, K. Nishida, H. Ogawaand N. Ohta: Macromolecules 46, 3031(2013).12)S. Kimata, T. Sakurai, Y. Nozue, T. Kasahara, N. Yamaguchi, T. Karino,M. Shibayama and J. A. Kornfield: Science 316, 1014(2007).13)Y. Ohta. H. Murase and T. Hashimoto: J. Polym. Sci., Part B: Polym.Phys. 48, 1861(2010).14)A. Danch, W. Osoba, D. Chrobak, G. Nowaczyk and S. Jurga: J.Therm. Anal. Cal. 90, 201(2007).15)T. Kanaya, T. Maede, M. Murakami, T. Matsuura, N. Takahashi,R. Inoue, K. Nishida, S. Sakurai and G. Matsuba: Proceedings ofInternational Symposium of Fiber Science and Technology 2014,Tokyo, Sept. 29- Oct. 1(2014).16)Y. Hayashi, G. Matsuba, Y. Zhao, K. Nishida and T. Kanaya:Polymer 50, 2095(2009).17)I. Lieberwirth, J. Loos, J. Petermann and A. Keller: J. Polym. Sci.,Part B: Polym. Phys. 38, 1183(2000).プロフィール金谷利治Toshiji KANAYA京都大学化学研究所Institute for Chemical Research, Kyoto University〒611-0011京都府宇治市五ヶ庄Gokasho, Uji, Kyoto 611-0011, Japane-mail: kanaya@scl.kyoto-u.ac.jp最終学歴:京都大学工学研究科博士後期課程専門分野:高分子構造現在の研究テーマ:高分子構造高橋伸明Nobuaki TAKAHASHI京都大学化学研究所Institute for Chemical Research, Kyoto University〒611-0011京都府宇治市五ヶ庄Gokasho, Uji, Kyoto 611-0011, Japane-mail: nobuakit@scl.kyoto-u.ac.jp最終学歴:京都大学博士(工学)専門分野:高分子物性現在の研究テーマ:高分子の流動結晶化32日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)