ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

金谷利治,高橋伸明,井上倫太郎,西田幸次,松葉豪図5重水素化PE(M w=600,000)と軽水素化PE(M w=2,000,000および58,000,3 wt%)のブレンドの延伸速度6 mm/秒および2.4 cm/秒の場合における延伸倍率λ=6の2D SANSとSAXSパターン.(2DSANS and SAXS patterns from blend of deuteratedPE(M w=600,000)and hydrogenated PE(M w=2,000,000)at drawing ratio of 6 for two drawing ratesof 6 mm/s and 2.4 cm/s)100,000,300,000,1,000,000,2,000,000)を3重量%ブレンドしたものを125℃で延伸速度6 mm/秒および2.4 cm/秒の2つの速度で延伸した.15)延伸倍率λ=6の際の2DSANSとSAXS散乱パターンを分子量M w=2,000,000と58,000の軽水素化PEについて,延伸速度6 mm/秒および2.4 cm/秒の場合について図5に示した.SAXSでほとんど差は見られず,軽水素化ポリエチレンは全体の結晶モルフォロジーにはほとんど影響を与えていないことがわかる.一方,SANSでは分子量および延伸速度で明瞭な差異が観測された.高分子量成分M w=2,000,000と低分子量成分M w=58,000を比べると,どちらの延伸速度でも低分子量M w=58,000のほうがシシに対応するストリーク状の散乱が強く現れている.また,同じ分子量で比べると,M w=2,000,000ではほとんど差がないが,M w=58,000では明らかに遅い延伸速度のほうがストリーク状の散乱は強い.すなわち,定性的にではあるが,上記の予想が確認できた.本研究の発端となったポリエチレンとアイソタクチックポリプロピレンのシシケバブ形成における分子量の12役割の相違)について,言及しておく.ポリエチレンとアイソタクチックポリプロピレンは,同じ結晶化挙動を示す訳ではないし,また本実験の結晶化の条件はKimataら12)のそれとも異なるので,本実験がKimataらの結果を説明している訳ではない.ここで言えることは,以前に報告したように,融点直上の延伸過程では超高分子量成分がシシに多く含まれるが,結晶化条件を変えると低分子量成分がシシに多く含まれることも起こりえるということである.3.2通常のT m以上の流動結晶化前駆体の構造とその役割前駆体融点直上の延伸結晶化物の高次構造解析より,伸張鎖結晶と思われるナノメートルスケールのシシに加え,マイクロメートルスケールの配向構造部が存在すること図6(a)250℃で生成させたiPS配向物の210℃でのアニール,および(b)その後の昇温過a)annealing程.((process at 210℃for oriented objects prepared at250℃,(b)heating process afterward.)上段は偏光顕微鏡像,下段は2D SAXSパターン.が明らかになった(図1参照).また,図6aに示すようにiPSの通常の融点T m(=223℃)より高い250℃でせん断流動をパルス的に印可すると同様のマイクロメートルスケールの配向物が観測される.16)両者の関係を明らかにすることは,シシケバブ生成機構解明にとり非常に意義深いと考えられるが,不明な点が多い.この融点以上でせん断流動により誘起される配向物を融点以下の温度(210℃)に降温してアニールすると配向物の回りとその内部に結晶が成長する(図6a).この配向物のSAXS測定を行うと,流動方向に平行に2スポットのパターンが観測されケバブの生成を示している.このため,われわれはこのマイクロメートルの配向物をシシケバブ前駆体と考えた.この配向物からどのようにシシケバブが生成するのかを調べることはシシケバブ生成機構を考える上で有用である.それゆえ,われわれはこの配向物の内部構造およびシシケバブへの生成機構を探ることにした.この前駆体の広角X線回折(WAXD)測定を行ったが,結晶由来のブラッグピークは観測されなかった.16)しかし,この配向物を昇温するとiPSの平衡融点近傍まで生き残り(図6b),少量の結晶が配向物の中に存在することが示唆された.配向物の試料中の体積分率は,条件にもよるがだいたい0.5%程度であり,内部の結晶化度を10%と見積もっても,試料中では結晶の体積分率は0.05%となり,通常のWAXDでは観測できない可能性が高い.よって,われわれはSPring-8のBL40XUのマイクロビームを用いて,配向物だけを狙い打つことにより内部構造を調べた.11)iPSに通常の融点以上の250℃でせん断流動を印可し,配向物を生成させた.その偏光顕微鏡写真が図7aである.赤丸,白丸で示した点がマイクロビームを用いてマッピングした領域を示している.ビームが配向物に照射されているとき(赤い丸)には,図7bの上に示したように非常に弱いが明確なブラッグピークが観察され,c軸が流動方向に並んだ結晶が存在することがわかる.一方,ビームが配向物を外れる(白丸)とアモルファス30日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)