ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

金谷利治,高橋伸明,井上倫太郎,西田幸次,松葉豪まとめた.本稿では,その後の進捗の一部である融点直10下での延伸結晶化)および融点以上で生成するシシケ11バブ前駆体の内部構造)について,小角中性子散乱および小角・広角放射光X線散乱の結果を中心にわれわれの成果をまとめることにする.††2.実験試料としてポリエチレン(PE)およびアイソタクチックポリスチレン(iPS)を用いた.PEについては,分子量M w=600,000の重水素化PEおよび分子量M w=58,000,100,000,300,000,1,000,000,2,000,000の軽水素化PEを用いた.重水素化PEに各分子量の軽水素化PEを3重量%だけ混合したものを試料とした.iPSは分子量M w=400,000のものを用いた.小角放射光X線散乱測定(SAXS)は西播磨にあるSPring-8のBL40B2で行い,マイクロビームを用いた実験はSPring-8のBL40XUで行った.マイクロビームのサイズは半幅で5 mmである.小角中性子散乱(SANS)は,東海村原子力研究開発機構の3号炉の小角散乱装置SANS-UおよびJ-PARC/MLFの小角散乱装置TAIKAM10),11で行った.その他,実験の詳細に関しては,原報)を参照されたい.3.結果と考察3.1融点直下での延伸結晶化-高分子量成分と低分子量成分の役割融点直上のPEの延伸結晶化における高分子量成分の役割を調べるために以前に次のような実験を行った.6)すなわち,重水素化低分子量PE(M w=58,600)に超高分子量ポリエチレン(M w=2,000,000)を2.8重量%混合し,融点直上で延伸した試料を準備し,その小角中性子散乱と小角X線散乱の相補測定を行った.その結果,シシケバブ構造においては,高分子量成分がシシに非常に多く含まれ,ケバブは主に低分子量成分で形成されていることが明らかになった.この理由は以下のように考えられる.溶融状態からシシケバブを生成させるには,試料を延伸する力を各高分子鎖に伝え,高分子鎖が伸長しなければならない.そのためには高分子鎖が絡み合っている必要があるが,多すぎる絡み合いは伸張を妨げる.すなわち,絡み合いは必要であるが,なるべく少ないほうがよいことになり,高分子鎖のオーバラップ濃度の3倍程度の高分子鎖同士の適度な絡み合いが必要である.7)よって,低濃度の超高分子量成分が有効に鎖の伸張を助け,シシには超高分子量成分が多く含まれることになる.††高分子を静置場で結晶化させると厚さ10~20 nmのラメラ晶を形成する.その融点を通常の融点(nominal melting temperature)と呼ぶが,表面エネルギーのため無限大のサイズをもつ結晶の融点(平衡融点,equilibrium melting temperature)に比べ低い.図1 SANSとSAXSの相補利用により明らかになった延伸ポリエチレン試料のシシケバブ構造模式図.(Schematic representation of shish-kebab in drawnpolyethylene revealed by complementary use of SANSand SAXS.)簡単化のため非晶低分子量成分とケバブの一部は省略してある.また,SANS,SAXSのデータの定量的解析により,図1に示すようなシシケバブ構造が明らかとなった.すなわち,直径約2 mm,長さ12 mmの大きな配向物が存在し,その中に主に超高分子量成分で形成された直径が約9 nmの伸張鎖結晶とエピタキシー的に成長したが存在することが明らかになった.6われわれの論文)が出版された同じ年の同じ月,まったく異なる結果が重水素化アイソタクチックポリプロピレンと軽水素化アイソタクチックポリプロピレンのブレンドの中性子小角散乱の結果を基に提出された.12)すなわち,低分子量成分がシシに多く含まれるというのがこの論文の結論であった.高分子の種類も結晶化条件も異なるので,同じ土俵で議論することには無理があるが,少なくともシシに多くの低分子量成分が含まれる場合があることを示している.われわれもPEについて,このようなことが起こるのかどうか,またシシケバブ生成過程はどのようなもので,各分子量がどのような働きをするかを明らかにす10るために,新たな実験)を行った.マトリックスである重水素化PE(M w=600,000)に超高分子量の軽水素化PE(M w=2,000,000)を3重量%ブレンドしたものを試料とし,125℃という融点(=132℃)直下の温度で,延伸速度6 mm/秒で延伸し,SANSとSAXS時間分割測定を行った.図2に延伸過程の2D SANSとSAXSパターンの時間発展を示した.図中λは延伸倍率で,試料の長さlと初期長さl 0の比である.まず,SAXSパターンを眺めてみる.未延伸状態(λ=1)から延伸に伴い丸い円形28日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)