ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

特集マルチプローブ研究が拓く構造研究の新時代3.材料科学分野におけるマルチプローブ研究日本結晶学会誌57,27-33(2015)SANSとSAXSを利用した流動と変形による高分子結晶化研究京都大学化学研究所金谷利治,高橋伸明,井上倫太郎,西田幸次山形大学大学院理工学研究科松葉豪Toshiji KANAYA, Nobuaki TAKAHASHI, Rintaro INOUE, Koji NISHIDA and GoMATSUBA: Flow and Deformation-induced Polymer Crystallization by SANS andSAXSWe have reviewed our two recent works on flow and deformation-induced polymer crystallizationrevealed by complementary use of SANS and SAXS. The first topic is elongation-inducedcrystallization of polyethylene just below the nominal melting temperature, focusing on the roleof molecular weight, and the second one is inner structure of flow-induced precursor of isotacticpolystyrene above the nominal melting temperature using microbeam SAXS and WAXS.1.はじめにポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンなどのような合成高分子はモノマーが一次元的に多数連結しており,その結晶化挙動は低分子のそれとは大きく異なる.1)最近では分岐した高分子や櫛型の高分子などもあるが,本稿では一次元に連結したものを扱う.同じポリスチレンでもタクティシティー†により,結晶化するものやまったく結晶化しないものもあるが,ここでは結晶化する高分子について述べることにする.溶融状態では長い高分子鎖は絡み合っており,流動挙動は粘性と弾性の両方を示し,いたって複雑である.2)このような高分子鎖が融点以下の温度におかれると結晶する.しかし,絡み合いをほぐして結晶化することは通常の結晶化条件では困難であり,必ず非晶部分が残る.結晶化度は結晶化条件や高分子の種類により大きく異なるが,10~60%程度である.静置場で結晶化させると厚さ10~20 nm程度の板状ラメラ晶となり,非晶部分とラメラ晶がいくつも重なったようなスタッキング構造をとり,さらにそれらが集まってマイクロメートルスケールの球晶を形成する.このように,高分子結晶は非常に広い空間スケールで階層的な構造を形成するのが特徴である.高分子結晶化のもう1つの特徴は外場,特に流動や変形の影響を大きく受けることである.高分子融体に流動†タクティシティーとは,ビニル型高分子を平面ジグザグに延ばしたときの置換基の並び方により決まる.置換期が常に同じ方向に出ているものをイソタクチック,交互に違う方向に出ているものをシンジオタクティック,ランダムに出ているものをアタクチックと言う.少数の例外を除いて,アタクチック高分子は結晶化しない.日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)を印可すると,高分子鎖は伸長し,配向する.その状態で結晶化を起こさせると結晶核生成が促進される(配向誘起結晶化)と同時に配向した結晶が生成する.もし,すべての高分子鎖を完全に引き延ばし,配向させて結晶化することができれば,鎖方向の弾性率,強度は非常に強くなり,理論的には鉄より強い高分子材料の創製が実現することになる.そのため,学術および産業応用的観点の両方から多くの研究がなされてきた.3)-8)今では,最も簡単な構造をもつポリエチレンや液晶構造をとる一部のポリアミドでは,高弾性・高強度の繊維がすでに生産されている.その高次構造はシシケバブ構造と呼ばれるモルホロジーを有している.シシケバブ構造とは,伸張鎖結晶(シシ)が芯となり,その回りに折りたたみ鎖ラメラ晶(ケバブ)が周期的にエピタキシー成長した構造であり,その構造が高弾性率・高強度の起源と考えられている.そのためシシケバブ生成機構に関する研究が多くなされたが,まだまだ不明な点が多い.その大きな理由の1つは,シシケバブ構造は非常に広い空間スケールで階層的構造をとり,1つの実験方法だけではその全容を明らかにできないことである.同時に,シシケバブ構造生成に関しては,非常に多くの因子(分子量,分子量分布,結晶化温度,流動の種類,流動速度,流動ひずみなど)が関係していることも解明が遅れている理由である.最近の量子ビームの発展を背景に,われわれは10年来この問題に取り組んで,いくつかの成果を出すことができた.以前に書いたレビュー9)では,シシケバブ生成における流動速度や流動ひずみの影響,融点直上での延伸過程における高分子量成分の役割,融点以上で生成するシシケバブ前駆体についてのわれわれの研究結果を27